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ガム1枚でスマホが満腹、つぶつぶカルシウムが効くエネルギー技術 燃料電池(3/5 ページ)

» 2012年09月20日 13時40分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]

「つぶつぶ」加工で制御する

 水素化カルシウムから水素(H2)を得る反応は次の通りだ。水素と同時に生成するのは右辺にある水酸化カルシウム(消石灰)。反応に必要な水素化カルシウムと水の重量比は約7対6である。

CaH2+2H2O → Ca(OH)2+2H2

 水と激しい反応を起こす水素化カルシウムをどのように制御したのか。アクアフェアリーが小型軽量の燃料電池を実現するために今回開発した主要技術は2つあり、そのうちの1つが制御技術だ。

 バルク状や粉末状の水素化カルシウムを使うと、反応をうまく制御できない。低温でも高温でも激しい反応が起きる。そこで、同社は水素化カルシウムの形状を工夫した。「つぶつぶ」加工である。「水素化カルシウムと樹脂を特定の条件下で混合することで、μmオーダーの水素化カルシウム粒子が薄い樹脂膜にくるまれた材料を開発した。水素を放出する反応は膜にくるまれた粒子ごとに起こり、反応後は粒子の体積が膨張することで、より深い位置にある粒子に水が到達しやすくなる」(石坂氏)。低温でもすぐに反応が起こり、高温での暴走も防ぐことができる。さらに水素化カルシウムを使い切ることができるという特長がある。

小型だからこそできた常温動作

 アクアフェアリーが開発した主要技術の2つ目が、燃料電池セルの軽量化と低温動作だ。広く使われているPEFCの動作温度域は90℃前後であり、各社はこの温度域を前提とした製品開発を続けている。しかし、携帯型機であれば、常温域で動作してほしい。どうすればよいのだろうか。

 「燃料電池の効率を高めるためには、燃料電池セルの主要構成要素である燃料極(アノード)、固体高分子膜、空気極(カソード)を十分密着させればよい。どれも膜状の構造を採り、一般のPEFCではボルト締めなどの手法で密着させている。NTTドコモと共同で開発した際は、金属かしめ技術で薄型加工していた。その後、樹脂の射出成形(インサート成形)を利用する加工技術を開発できた。樹脂は軽く、複数の膜を十分密着させることもできたため、常温動作が可能になった」(石坂氏)。これは小型セル(図3)だからこそ可能になった工夫である。大型セルであれば、同じ手法を採っても圧力が十分に高くならないからだ。

図3 燃料電池セルの外形 インサート成形技術で樹脂を薄く成形しており、低温でも効率よく発電できるようなセルとした。図1の燃料電池本体側にこのセルを4枚内蔵させた。

水素供給にポンプ不要

 この他にも、小型軽量、高効率を実現する技術を燃料電池に組み込んだ。水素の流量を制御する仕組みだ。

 燃料電池は水素を流せば発電し、水素がなければ止まる。従って発生する水素の量を機器側の負荷に応じて柔軟に変えれば発電量を制御できる。例えばバルブやポンプなどの部品を組み込めばよい。だが、バルブを採用すると可動部品の点数が増え、コストアップ要因になる他、バルブ自体の開閉動作で電力を消費してしまう。

 同社は逆転の発想で取り組んだ。機器の消費電力が減ると、水素が消費されないため、水素発生部の内圧が高くなる。この圧力を水タンクに戻すことで、水素発生部に送られる水量をゼロに絞り込むという手法だ(図4)。

図4 図中央で発生する水素が給水量を調整している。図左の「圧力」とある部分も実際には発生する水素の圧で動いている。小型のレギュレータを組み込むことで、水素発生部から2つの異なった圧力を作り出している。左側と中央の容器をカートリッジ内に納め、「燃料電池」を本体側に納めた。出典:アクアフェアリー、ローム

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