産業革新機構と顧客企業8社から、総額1500億円の出資を受けるルネサス エレクトロニクス。産業革新機構社長の能見公一氏は、出資完了後のルネサスの経営体制について、「成長戦略を進めるには明確なリーダーシップが必要になる」とコメント。M&Aなど大規模投資のために、500億円の追加投資も検討しているという。
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2012年12月10日、東京都内で記者会見を開き、官民ファンドの産業革新機構を中核に、トヨタ自動車、日産自動車、ケーヒン、デンソー、キヤノン、ニコン、パナソニック、安川電機の顧客企業8社から総額1500億円の出資を受ける目的と、今後の成長戦略の概要について説明した(関連記事1)。
会見には、ルネサス社長の赤尾泰氏、産業革新機構社長(CEO)の能見公一氏が出席した。ルネサスの赤尾氏は、「これまでルネサスは、事業撤退や工場の再編、人的合理化などによる事業構造対策と、NEC、日立製作所、三菱電機の大株主3社や銀行などから得た資金による財務基盤の健全化を進めてきた。しかし、将来の成長に向けて競争力を強化するには、さらなる資金を確保する必要があった。今回、産業革新機構と顧客企業8社から出資を得るのはそのためだ」と語る。
1500億円の出資金は、産業革新機構と、顧客企業8社によって構成するコンソーシアムに対して、追加発行する株式を割り当てる第三者割当増資によって調達している。追加発行した株式数は12億5000万株で、発行価格は1株当たり120円。払い込み期間は2013年2月23日〜9月30日となっている。ただし、日本を含めた各国当局の認可が得られ次第、すみやかに一括して払い込まれる予定である。
今回の第三者割当増資で、産業革新機構は1383億5000万円を出資する。出資比率は69.16%ととなり、ルネサスの議決権の3分の2以上を保有することになる。また、総額116億5000万円(内訳:トヨタ自動車50億円、日産自動車30億円、ケーヒン10億円、デンソー10億円、キヤノン5億円、ニコン5億円、パナソニック5億円、安川電機1億5000万円)を出資する顧客企業8社のコンソーシアムの出資比率は5.82%になる。
これまで、合計で91.13%だったNEC、日立製作所、三菱電機の出資比率は、22.8%まで低下する。それぞれの出資比率は10%未満となり、金融商品取引法上の主要株主から外れることになる。
ルネサスは、資金調達の手法として、銀行などからの追加借り入れ、公募増資、ライツオファリング(新株予約権を無償で割り当てた既存株主の株式取得によって資金を得る増資手法)、第三者割当増資を候補として検討。これらの中から、必要な資金・資本を確実かつ迅速に得るために、第三者割当増資を選択した。
赤尾氏は、「国内外の複数の投資家を割当候補先として検討を進め、2012年春ごろから、いくつかの割当候補先から具体的な出資提案を受けた。中でも、産業革新機構と顧客企業8社のコンソーシアムによる出資提案は、必要な多額の資金を一括して確実かつ迅速に調達できる点、割当予定先との事業シナジーの点で優れていた」と説明する。
産業革新機構の能見氏は、報道陣との質疑応答の中で、「日本の国富を増進させるために発足した産業革新機構にとって、半導体産業の構造改革は大きなテーマの1つだ。その中で、ルネサスとは2年以上にわたって、断続的にさまざまな協議を進めてきた。報道の中で、他の投資ファンド(編集部注記:米国投資ファンドのKKR)の関与について名前が挙がっているようだが、それは産業革新機構とルネサスの間で協議してきた2年以上という長いプロセスの中での1コマ過ぎない」と、ルネサスとの関係性を強調した。
出資完了後の新たな経営体制については、「成長戦略を進めるには明確なリーダーシップが必要になるだろう。議決権は産業革新機構が3分の2以上を有することになるが、基本的な事業のかじ取りは経営を担う方に任せたい」(能見氏)とした。また同氏は、産業革新機構による投資期間について、「他の出資案件と同様に5〜7年程度を想定している」と回答した。役員の派遣については、「出資後の初期段階は産業革新機構の影響力を出せるレベルの数を派遣する」(同氏)という。
さらに産業革新機構は、今回の1500億円の出資に加えて、「M&Aなどの大規模投資案件に対応するため」(能見氏)、500億円を追加出資することも検討している。
赤尾氏は、「産業革新機構からは、さらなる固定費の削減を求められており、人員削減などを含めた追加の合理化策を検討している。具体策は今後、産業革新機構などと協議していくことになる」と述べている。
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