プロセッサなどのデバイスに混載されるキャッシュメモリは、マルチコア化などに伴い容量が増大する傾向にあり、キャッシュメモリ部の待機電力も大きくなっている。そのため、キャッシュメモリを不揮発化しようとしている。ただ、キャッシュメモリは、DRAMなどのメインメモリに比べ、容量は小さいものの高速なアクセススピードが求められる。キャッシュメモリに、MTJ素子による不揮発性メモリを用いるには、現行のSRAMと同様のアクセススピードを実現する必要がある。
しかし、MTJ素子を高速にスイッチング動作させるには、大きな電流が必要となる。大電流を流すためには、トランジスタ構造が大きくなるとともに、消費電力が増大する。さらに、スイッチング時間が短くなるとスイッチング確率(正しくスイッチングする確率)も著しく低くなるという課題を持つ。これまで、NECと東北大が開発してきた混載メモリでも書き込み時間は40ns程度と、2ns程度のSRAMに比べ遅く、混載メモリとして応用するためのネックとなっていた。
今回、2者は、L3キャッシュメモリで要求される2ns程度の高速書き込みを実現するため、SRAMとMTJ素子を組み合わせた「バックグラウンド書き込み方式」を考案した。この方式は、書き込みが高速なSRAMとMTJ素子を併用するもので、とりあえずSRAM側は2nsという短時間で書き込みを終える。同時に、同じデータをMTJ素子側は、5ns程度の時間をかけてゆっくりと書き込むという仕組みだ。回路の工夫で、CPUなどキャッシュメモリを使う側には、MTJ素子の書き込みの遅さは見えず、従来のSRAM同様のアクセススピードで使用できる。また、2者は、MTJ素子の書き込みが終了した後に、電源を遮断するタイマーを電源分割単位毎に構成する技術も合わせて開発。そのため、SRAMのデータ保持は、MTJ素子への書き込みが完了するまでの暫定的なものであり、大部分の時間はMTJ素子のみでデータを保持するため、SRAMでの電力消費はわずかだ。
SRAMとMTJ素子を双方を使用するため、チップサイズの増大が懸念されるが、MTJ素子はトランジスタ上に構成できるため、一般的な6トランジスタ構成のSRAMとチップサイズは変わらないという。
今回、90ナノCMOSプロセスを使用しバックグラウンド書き込み方式を使った1Mビット容量の混載メモリを試作した結果、電源電圧1.3Vでの動作、2.1nsという高速書き込みが行えることを確認し、「L3キャッシュレベルでMTJ素子が応用できる基盤技術が確立できた」(NEC/東北大学)としている。
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