間違ってほしくないのは、“イノベーションはないよりもあった方がいいに決まっている”ということである。ここで伝えたいのは、少なくとも自動車企業にとっては、イノベーションは必須ではなかったと考えられるということだけだ。例えば、マツダのレシプロエンジンへの徹底的なこだわりや小型のディーゼルエンジンなど画期的であるし、トヨタのハイブリッド車や燃料電池車(「MIRAI」)には惜しげもなく同社の持つ最新の技術が注ぎ込まれていることは間違いない。
一方で、電機企業のモノづくりは、先述したような日本企業が先導して、極めて革新的なデジタル家電商品を数多く投入してきた。DVDプレイヤー・レコーダ、薄型テレビ(プラズマ・液晶など)、デジタルカメラ、携帯電話機やスマートフォン、カーナビゲーションなどで世界をリードしてきた。シェアが100%のものが数多くあったのだ。
この点では、日本の電気企業のイノベーション能力は相変わらず高く、優れた製品が数多く開発されているのである。問題は、優れた製品を効率的に開発して販売量が増えても、それが利益に結び付かない点だ。
皆さんもご存じの通り、新型製品が家電量販店に並んでも、あっという間に価格が下落するので買うタイミングを逸してしまうこともある。さらに、どこのメーカーの製品であっても機能や性能に大差なく、安いものや値引いてくれるものを購入するというコモディティ化*)が圧倒的に早く、価格低下が急速に進んでしまうことが一因である。さらに、機器そのもののデジタル化が進み、技術標準のオープン化などの環境変化も要因であると考えられる。
*)コモディティ:マーケティング用語で同質化の意味。価格以外に差別化要素がないことをいう。
デジタル家電の多くは、優れた日本企業の技術力、開発能力によって商品化した日本企業が存在しなければ、世界でここまで普及しなかったことは間違いない。
電機メーカーはモノづくりでは世界中の消費者に大きく貢献し、負けていなかったのだが、価値をきちんと消費者に伝えることができなかった。「いいものはできたが売れなかった(買ってもらえなかった)」ということが、アジア諸国勢企業に負けてしまった理由であることは明白だ。
言い換えれば、イノベーションによって新しい価値を生み出すことができても、この価値から適切に適正な対価を企業側が得られなかったということに他ならない。これについては、第2回で詳しくお伝えしたい。
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