今回は、回路がどのようにレイアウトされていくのかを見てみよう。回路図が同じでも、実際にシリコンのスタンダードセルとして具現化すると、レイアウトがだいぶ異なる場合もある。ARMの講演では、コンパレータを例に取って説明していた。
前回は、スタンダードセルの概要を説明した。それでは、実際の回路がどのようにレイアウトされていくのかを見てみよう。ARMの講演では、コンパレータ(比較器)の例を挙げていた。
入力信号Cと入力信号Dの値を比較するコンパレータは、2個のインバータと2個の2入力NAND、1個のNORで構成される。レイアウトは対称形が基本である。初段の2個のインバータは、接地配線を中央に、その上下に1個ずつ、対称に配置する。次段の2個のNANDゲートも同様に、接地配線を中央にして対称にレイアウトする。最終段のNORゲートは上部に配置する。
ここで重要なのは、各CMOSゲートにおける拡散層(ソースあるいはドレインになる層)の大きさである。拡散層の大きさが、トランジスタの電流駆動能力を決めるからだ。負荷容量の大小を考慮し、さらにnMOSトランジスタとpMOSトランジスタの違いに配慮して、拡散層の寸法を決める。
負荷容量が大きいときに、遅延時間を短縮するためには拡散層を大きめに確保してゲート幅を広くとらなければならない。また通常のトランジスタは、同じ寸法だとnMOSトランジスタの電流駆動能力がpMOSトランジスタよりも高い。そこで普通は拡散層のサイズを調節して、nMOSとpMOSの電流駆動能力を同じにする必要がある。
したがって同じ種類のゲートでも多種多様なセルレイアウトが存在することになる。講演では、2入力NANDゲートのスタンダードセルを例示し、24種類ものレイアウトを見せていた。
回路図では、2入力NANDゲートは2個のpMOSトランジスタと2個のnMOSトランジスタの組み合わせで表記される。24種類のセルレイアウトは、回路図では全て同じだ。しかしシリコンのスタンダードセルとして具現化すると、数十種類の異なる「レイアウト」が姿を現す。実際のシリコン集積回路の姿に比べると、回路図がいかに抽象的なものであるかが、よく分かる。
言い換えると、回路図だけでは、シリコンの集積回路を具体的には決められない。シリコンの集積回路を決めるのは、マスクパターンの集合だ。回路図をマスクパターンの集合に変換するのが、本シリーズの第3回で説明した設計工程(配置工程や配線工程など)なのである。
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