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固体デバイスでもつれ電子対の空間的分離を実証――量子コンピュータの基盤“もつれ電子発生器”の実現へ道非局所性伝導のオンオフも成功!(2/2 ページ)

» 2015年07月03日 12時40分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]
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分離を実証できなかった

 なお、電子対の空間分離は、ナノスケールの半導体の島状構造である量子ドットを2つ使うことで実現できる。量子ドットはサイズが極めて小さいために2個の電子が同時に占有しにくいため、電子1個だけを通すフィルターとして動作する。こうしたことを利用し、電子対を構成する2つの電子を2つの量子ドットへ高効率で分離する実験は報告されているが、空間分離した2つの電子がもつれ状態を維持していることを実証した例はなかったとする。

GaAs基板上にInAs、アルミニウム電極

 そこで、共同研究グループは、超伝導体と量子ドットからなるナノデバイスを新たに開発し、空間分離した2つの電子がもつれ状態を維持していることの実証に取り組み、成功したという。

素子の電子顕微鏡写真 出典:科学技術振興機構
2つの量子ドットはガリウムヒ素基板上に載せたインジウムヒ素の微小島(赤色)で、その両端にはアルミニウムの超伝導電極(青色)がある。上下2つのゲート電極(緑色)により2つの量子ドットの単一電子トンネルを独立にオン/オフすることができる。

 実証を行うため、ガリウムヒ素(GaAs)基板上に半導体インジウムヒ素(InAs)の島状構造からなる2つの量子ドットを作製。2つの量子ドットを並列に配置し、その両端に測定温度30ミリケルビンで超電導になるアルミニウム電極を取り付けて素子を作った。

 この素子に流れる電流は単一電子ではなく、非散逸な超伝導電流として、クーパー対、すなわち、もつれ電子対により運ばれる。小さな量子ドットにより、1つのドットを2つの電子が同時に占有しにくくなるため、2つのドットにクーパー対の2つの電子が分離する。この分離過程を介して、超伝導電流が流れるようになり、クーパー対の非局所性のトンネル効果*)は、超伝導電流の測定により確認できる。

*)古典的な粒子としては乗り越えることができないポテンシャル障壁を、量子力学的な波としては、不確定性原理により透過してしまう現象。粒子の持つ波としての確率振幅が障壁の反対側に染み出す。

非局所性伝導のオンオフにも成功

 この素子を用いた実験の結果、超伝導電流が観測され、「2つの電子が、空間分離して各ドットをトンネル(通過)する間、もつれ状態を維持していることが実証された」(共同研究グループ)。さらにゲート電極でそれぞれの量子ドットを独立に制御して、各ドットの単一電子トンネルを実効的にオン/オフすることで、非局所伝導のオン/オフにも成功したとする。

上と下の2つのゲートを制御して測定した超伝導スイッチング電流のプロット 出典:科学技術振興機構
スイッチング電流はクーパー対による非散逸超伝導電流を反映している。横と縦の白い破線ではそれぞれのドットが共鳴状態にあり、交差点以外では2電子が1つのドットを占有することで超伝導電流が流れるが、図ではほとんど見られない。実験結果は、2つのドットが同時に共鳴状態にあってクーパー対を作る2電子が別々の経路で素子を流れる場合のみ超伝導電流がよく流れることを示している。

 共同研究グループは「量子もつれは、量子計算機や量子通信のシステムを構築するために基盤となる概念であり、もつれ電子対の生成を実現することは非常に重要。今回の研究の結果は電子もつれ対の発生器を実現したもので、固体素子中で量子もつれを研究する新しい機会をひらくという点で画期的な成果だ。この成果をさらに発展させ、量子計算や量子テレポーテーションによるチップ上の量子通信に必要な、“オンデマンド”非局所スピンもつれ電子対の発生器を実現することが次の目標になる」としている。

 なお、今回の研究は、科学技術振興機構(JST)の国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)日独共同研究「ナノエレクトロニクス」、内閣府の革新的研究開発推進プログラムの研究の一環として行われた。

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