大阪大学小林研介教授らの研究グループは2015年9月、グラフェンに特有の電子分配過程を「世界で初めて観測した」と発表した。
大阪大学小林研介教授、東京大学松尾貞茂助教、京都大学小野輝男教授、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点塚越一仁主任研究者らのグループは2015年9月、グラフェンにおける電子の分配を「世界で初めて観測した」と発表した。今回の観測により、グラフェンに対する理解が深まり「グラフェンの将来性を広げるもの」(同グループ)とし、グラフェンを用いた電子干渉デバイスなどの実現に向けて役立つ成果とする。
グラフェンは、新たな半導体材料として期待され、pn接合を形成できることが知られている。グラフェンのpn接合は、その特異な電子構造を反映した特殊な接合となる。特に強い磁場の中におくことで、これまで実現が困難だった量子ホール状態*)にあるpn接合の研究が可能になるとされる。
*)量子ホール状態:二次元電子(正孔)系に対し垂直に強い磁場を印加すると、電子の軌道運動が量子化され、系のホール伝導度が離散化された普遍的な値をとるようになる。これを量子ホール効果と呼び、このような現象を示す電子(正孔)系を量子ホール状態と呼ぶ。
量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では、伝導度測定の結果、量子ホール状態が完全に混じりあうことにより、接合の両側への電子の分配過程の存在が推察されている。ただ、研究グループによると、こうした電子分配過程を直接的に実証した報告はなかったという。
そこで、小林教授らの研究グループは、グラフェンpn接合における電子の分配の様子の直接観察とその機構の解明のため、電流ゆらぎ(ショット雑音)測定を実施した。
ショット雑音とは、電流の実体が、素電荷(e=1.602×10−19クーロン)を持つ電子という単位により構成されているために起こる電流のゆらぎ(雑音)のこと。量子ホール状態では、電流は一方向にのみしか流れることを許されず、ゆらぐことができないためにショット雑音は観測されない。ただし、量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では、接合において量子ホール状態が完全に混合する結果、電子が接合を確率的に通過するという電子分配過程が生じる。そのため、「電流にゆらぎ(ショット雑音)が発生することが期待される」という理論的な予想が以前から存在していた。
測定は、ゲート電極を組み合わせることによりpn接合を形成可能なグラフェン試料を作製し、低温強磁場下で実施。その結果、量子ホール状態でpn接合のある場合にはショット雑音が発生するのに対し、pn接合のない場合にはショット雑音が発生しないことが明らかになった。さらに、観測されたショット雑音の大きさが、既に存在した理論予想とほぼ一致することも実証したという。
これらの測定結果について研究グループは、「量子ホール状態にあるpn接合が電子を分配するということを世界で初めて直接的に示した成果であり、グラフェンpn接合で起こる電子分配の微視的特性を初めて定量的に確立した成果だ」としている。
グラフェンのpn接合が電子分配機構を持つことを初めて直接的に実証したことは、ギャップのないグラフェンでは実現困難な量子ポイントコンタクトに代わる電子分配機構としてpn接合が利用可能であることを示し、「グラフェンを用いた電子干渉デバイスなどの実現につながることが期待される」(同グループ)としている。
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