“売れる製品”を作るためには、ある程度、経営戦略も知っておく必要があるだろう。一般に、企業の成長戦略は、「事業の広さ」と「事業の深さ」という2種類の視点から考えられる。まずは、いかにして顧客を「創造」するかについて、解説していこう。
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前回(第10回)、「製品アーキテクチャは、自社の製品が部品なのか、完成品なのかを知り、どの企業と付き合い(製品を納め)、自社なりの有意な立ち位置はどこなのか?と模索することは、事業戦略そのものである。そして、意味的価値や組織能力を含めて考えていくと、経営・マネジメントそのものに行き着くことが見えてくる」と述べた。
そこで、今回と次回の2回に分けて、簡単な経営戦略の観点から、これまでに本コラムで述べてきたことを振り返ってみたい。「点から線へ」と話がつながってくるはずだ。
企業の成長戦略は、“事業の広さ”と“深さ”の視点から考えられる。
“事業の広さ”は、事業を「製品(P:Product)」と「市場(M:Market)」の2軸で捉え、さらにそれぞれを「既存」と「新規」に区分する。また、“事業の深さ”は、既存や新規の売り上げ・利益を高め、事業の高い成長率を維持する切り口だ。
米国の経営学者であるアンゾフ(Ansoff, H.I)は、前出の2軸を4象限のマトリクスで示した。これは、「事業拡大マトリクス」と呼ばれる。「成長ベクトル」「PMマトリクス(製品・市場マトリクス)」と呼ばれることもある(図1参照)。
横軸は製品の既存と新規、すなわち“既存製品”と“新規製品”を表す。縦軸は市場の既存と新規、すなわち“既存市場”と“新規市場”である。事業拡大マトリクスは、3つの成長ベクトルを示唆し、1つ目は「製品開発による製品の多角化」、2つ目は「新市場開発(開拓)による市場の多角化」、そして3つ目は「これらの事業の深さ」である。
経営戦略・事業戦略においては、これら3つの成長ベクトルをうまく組み合わせることで、自社に最適な成長戦略を明確化することが必要だとされる。
それぞれの成長ベクトルの特徴を以下に示す。
【市場浸透戦略】
既存製品を既存市場に販売する組み合わせは、既存事業への市場浸透戦略である。一般にマーケティングに注力し、顧客の購買意欲を刺激することで現業での売上拡大をめざす成長戦略である。より分かりやすく言えば、企業は、市場も製品も何ら変えることなく成長機会を捉えることができる。
【市場開発(開拓)戦略】
新市場に既存製品を販売する組み合わせは、市場開発(開拓)戦略である。例えば、国内販売の既存製品を海外で販売する場合が、市場開拓戦略に該当する。市場開拓のコストとリスクはあるが、製品開発のコストとリスクはない。また、販売数量が伸びることで量産効果が生まれ、結果的にコストダウンにつながり、売上拡大が可能になる。
ただし、市場そのものの成長性を見極める必要があることと、特に海外に市場を求めた場合は、失敗した時の撤退などを想定しておかなければならない。
【製品開発戦略】
新製品を既存市場に投入する組み合わせは、製品開発戦略である。既存顧客への企業の認知度もあり、流通チャネルが構築されているため、今までの経営資源を効果的に用いて販売することが可能だ。最もリスクが少ない成長戦略と言われ、製品ラインアップの充実なども図ることができる一方で、利益率の悪い製品の改廃も視野に入れなければならない。
【多角化戦略】
新製品を新市場に投入する組み合わせは、新しい事業分野に進出する多角化戦略である。新製品の開発リスクとコスト、新市場の開発リスクとコストが、それぞれ発生するのでもっともリスクは高い。そのため、安易にこの多角化戦略は選択すべきではないが、成長分野であれば「先手必勝」で業界のリーダーになることも可能であるため、「もろ刃の剣」ともいえる戦略である。
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