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知っておきたい経営戦略 〜顧客をどう増やす?勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(11)(3/3 ページ)

» 2015年12月22日 11時30分 公開
[世古雅人EE Times Japan]
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顧客創造:自社の川下企業へ入り込む

(1)市場浸透:既存市場で既存製品を今以上に買ってくれる顧客はどこに存在するのか(市場浸透)? すなわち、「取引の拡大」そのもので、これはどうすれば実現可能なのか?
(2)市場開発:できるだけ競合企業がいない市場や、新製品でなくても競合に勝てる市場はどこなのか(市場開発)? すなわち、どうやって既存製品を掲げて、市場や顧客を開拓するか?

※川上企業と川下企業

 製造業の製造工程を川の流れにたとえたもので、以下の通りとなる。

  • 川上企業:原材料、素材を製造する企業
  • 川下企業:川上企業の製造した製品の組み立て、製造を行う最終製品企業

 なお、これらの中間的な位置付けとして、加工やアセンブリを行う“川中企業”が挙げられる場合もある。


 (1)の市場浸透に効果的な戦略は、「既存の川下企業に、上流・下流プロセスを浸透させること」である。

【顧客創造:既存の川下企業(=顧客)の上流プロセスに浸透する】

 皆さんの会社がモジュール市場に位置していると仮定すれば(図3を参照)、川下企業にモジュール製品を納め、川下企業はそのモジュールを組み込んだ製品を作っている。このモジュール部品が汎用品であればあるほど、川下企業にとっては「つぶしが効くモノ」となる。つまり、特定の製品だけではなく、さまざまな製品に組み込むことができるということだ。もちろん、汎用品でない場合はこの限りではない。

 はじめに、「上流プロセスへの浸透」を考えてみよう。再度、図3をご覧いただきたい。

 ここで言う上流プロセスとは、「購買・開発/設計・生産技術」などであり、「製造」などは含まれない。“浸透”とは、この上流プロセスに皆さんの企業が“入り込む”ということを意味する。これは、経営戦略の分野では「デザイン・イン」と呼ばれることもある。部品(本記事ではモジュール市場の企業)の製造販売を行う企業が、川下企業と製品設計協力をして共同開発を行うことを言う。その際に自社部品を、当該製品の組立てに使用するように働きかけることである。

 ちょうど2015年12月20日に最終回を迎えたTBSのドラマ「下町ロケット」で、舞台となっていた佃製作所は、川上企業そのものだ。同社のバルブシステム(=部品)は、苦難の末、帝国重工のロケットエンジン(=製品)に組み込まれる。ドラマや原作にはないが、仮に佃製作所が帝国重工と一緒に製品開発をするようになると、部品(既存製品)供給にもより弾みがつくということと、ここで言う「上流プロセスへの浸透」は同義である。

 ここで課題となってくるのは、自社の川下企業(この例では製品市場に位置する顧客)の上流プロセスをどこまで把握しているだろうか、ということである。つまり、川上企業(モジュール企業)は、自分の川下企業がどのような仕事のやり方をして、どんな問題を抱えているかなどを単に「知っている」だけでなく、それを解決する「技術力/能力を備えている」ことが必要になる。その結果、「単なるサプライヤー」から、「対等なパートナー企業」への脱却が図ることができ、取引の拡大をもたらすことになる

 このデザイン・インを実現するためには、前述の上流プロセスの把握の中には、「製品アーキテクチャ」が含まれる。製品アーキテクチャが理解できない限り、絶対に川下企業へは入り込めない。さらに、自社を優位に(先ほどはパートナーと言ったが)立たせるためには、自社製品の製品アーキテクチャを、どのようなタイプ(外と中がオープン・インテグラル)にしておくべきかは重要だ。そしてもう1つ、川下企業の問題解決ができ、パートナーと認めてもらえるレベルの能力を自社の組織が持っているか否かであり、これは第5回で述べた「組織能力」に他ならない。

 少し難しい話が続いたが、ここで少しでも話がつながれば幸いだ。

【顧客創造:新規の川下企業、他業界への市場開発】

 もう1つの(2)(市場開発)に対して効果的な戦略は、「新規の川下企業、新規市場スへの進出」であるとされるが、これには、戦略やマーケティング・製品企画、自社技術の応用技術、ブランドはもちろんのこと、企業全体の総合力のようなものが必須である。従って、前出の取引拡大よりも、市場・顧客開拓がいずれも新規なので難易度は高いものとなる。

 次回は「事業創造」について解説する。


「勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ」バックナンバーはこちら


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。


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