江端さんは、この話を ――
ギャグの話に、持ち込みたいんですか?
それとも、社会問題をシリアスに論説したいのですか?
それとも、定番の『江端節』の人権問題に帰納させたいんですか?
それとも、数値で読者を驚かしたいんですか?
一体どれなんですか?
―― と、切り出してきました。
レビューを頼んでおいた後輩が言うには、「今回のコラムは、江端さんの立ち位置が、見えない」のだそうです。
(やっぱり見抜きやがったか。これだからエンジニアは嫌いだ)
私たちエンジニアは、「仮説」「事実」「推測」「考察」を明確にして、分離して記載することを徹底的に教育されていますので、こういうことには、結構、敏感なのです。
実際のところ、彼の指摘は正しいのです。今回のコラムは、「色」をどように出すか決め兼ねたままで、執筆に突入してしまいました。
後輩:「なんていうんですかねー、今回のコラム、全体的に、ピントがボヤけて見えるんですよ。江端さんの『人を踏みつけて、高らかに笑い飛す』あの傍若無人さが感じられない。鋭さもツメも甘い」
江端:「まあ、その通りなんだが、ちょっと、このテーマ(拒食症)、結構重くてね。特に、拒食症や過食症の実例は、本当に『ドン引き』するような内容ばかりだったし。わが家の2人の娘が『摂食障害の予備軍』かもしれないと思うと、本気でめいってしまったしなぁ」
後輩:「最初から、全部書き直したらどうですか?」
江端:「そんな簡単に言うなよ」
後輩:「私も、この法律の話は知っていましたが、『「自由・平等・博愛」のフランスが…』の観点からの展開は、結構、面白いと思いました。でも、読者に『フランス』というあの国の特殊性が、この文章から伝わりますかね?*)」
*)このコメントを受けて、「レ・ミゼラブル」や「ベルサイユのバラ」などの言葉を加えました。
後輩:「それと、圧倒的な違和感が残ったのは「江端智一『拒食症』疑惑」です」
江端:「そうか? 結構、冷静な自己分析ができていると思っているんだけどな」
後輩:「私もダイエットとかやっていて、落ちていく体重の値や、スマートになっていく体形に熱中してしまったことがあるので、その感じは、とても良く理解できます」
江端:「じゃあ、どこに違和感があるんだ?」
後輩:「江端さんは『ダイエットによって脳の機能の破壊が始まっていた』って書いていますが、それは、被験者が、ダイエット開始前に『脳の機能が破壊されていない人』であることが前提なんでしょ?」
江端:「だから?」
後輩:「だから……、そういうことですよ」
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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