ある晩、風呂に入ろうとしていた私の体を見て、娘が悲痛な叫びをあげました。鏡を見ると、びっくりするほど痩せ細った私が映っていたのです。今回は、ダイエッターにとって決してひとごとではない“ダイエットの負の連鎖”、つまり摂食障害の深刻さについて数字を分析してみましょう。
「世界を『数字』で回してみよう」現在のテーマは「ダイエット」。人類の“永遠のテーマ”ともいえるダイエットを、冷静に数字で読み解きます。⇒連載バックナンバーはこちらから
「江端さん。本当に悪い病気にかかっているんじゃないでしょうね」
ダイエットを始めてから、何度このセリフを聞いたことでしょう。
私は、『江端さん、キレイになりましたね。恋でもしているんですかぁ?』などと言われたいわけではないです(そんなこと言われたら、後ずさって、全力で逃げる)。でもね、『江端さん、男前にさらに磨きがかかりましたね』とか、『江端さん、最近、クールですね』くらいのことを言ってくれてもいいと思うのですよ。
ですが、誰もが真っ先に「ガン」の話を切り出してくるのです。
まあ、確かに、美しい妻と、かわいい二人のティーンエージャーの娘を持つ中年男性が、この時期に13kgもの体重を減らせば、病気を疑われても仕方がないのかもしれません。
そして、私の家族も、また「パパ、まだダイエット続けているの? もう十分でしょう」と言い続けています。
しかし、私はAKBのようなアイドルグループと比較しても、まだまだ全然太っており、健康指標であるBMI=22.0にも至っていません。
以前、アンケートの項目に入れた、「私のダイエットの妨害をするのは、家族である」というフレーズを思い出して、苦笑していた日々でした。
ある日のことです。
「パパ! ちょっと気がついているの! 本当に異常な状態になっているんだよ!!」
風呂に入ろうとして、パンツとシャツだけになっている私を捕まえて、長女が叫びました
江端:「いや、そんなことないよ。ちゃんと3食きちんと食べているし、体重だって、BMI22には、まだまだ遠く及ばないし、第一、BMI18台のお前に責められるようなことでは……」
長女:「数字なんてどうだっていいよ! いい加減、自分の目で、鏡を見てみなよ!」
と、長女が、私に向けた鏡の中には、かつては、1mmものスキマのなかった両足の腿(モモ)にポッカリと大きな空洞が広がっており、その空洞を作っている細い2本の棒の上には胴体が乗っかっただけの、奇妙な形状の人体が映っていました。
……これ、誰?
その時、平成横浜病院の保健指導室で、インタビューに応じて頂いた管理栄養士の、伊藤先生と久保寺先生の声が、私の脳裏をかすめました。
『拒食症の患者たちは、自分が太っていると思い込み、誰の話も聞かなくなり、減量を止めようとしないのです』
BMI=22.0にも至っていない、この私が、拒食症? いやいや、そんなことあるはずがない。
そう思いながら、私は急いで「拒食症」に関する本を読みまくりました。
そして、拒食症の人の多くが、私と同じように『拒食症? この私が? そんなことあるはずないじゃん』と、思い込んでいることを知って、今、私は、がく然としています。
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