GPUの性能を10倍ほど上回るモバイル機器向けニューラルネットワーク(神経回路網)チップを米大学が開発した。
米マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の研究チームは、ニューラルネットワーク(神経回路網)を構築するチップを発表した。同チップは、モバイル向けGPUの約10倍の性能を誇るという。同チップを搭載したモバイル機器は、ネットワークを介さずに人工知能(AI)アルゴリズムを実行できるため、データを処理するためにネットワークにアップロードする必要がないという。
MITの研究チームは、2016年1月31日〜2月4日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」でこの研究成果を発表した。
今回発表されたチップは、MITで電気工学/コンピュータサイエンス学科の教授を務めるVivienne Sze氏率いる研究チームが開発した。Sze氏は、「ディープラーニング(深層学習)は、オブジェクト認識やスピーチ、顔検出など、多くの用途に役立つ技術だ」と述べている。
このチップは「Eyeriss」と呼ばれ、特定の機能向けにネットワークを“クラウドで”育成した後、構築したネットワーク構成(ネットワーク内の各ノードの配置)をモバイル機器にエクスポートする。
Eyerissは168個のコアで構成され、各コアにメモリが搭載されている。コア間のデータ交換に外部メモリを使用するチップの場合、時間とエネルギーの消費が大きい。これに対し、Eyerissはメモリを内蔵することで、データ交換を行う際にコアが必要とする周波数が最小限に抑えられるという。
Eyerissは、データを圧縮して各コアに送信する。各コアは、隣接するコアと直接通信することもできるため、メインメモリを介さなくてもデータを共有できる。
Eyerissの性能の最大のカギとなるのが、コアにタスクを割り当てる回路だ。各コアのローカルメモリには、そのコアに対応するノードで操作されたデータだけでなく、ノード自体を記述したデータも保存されている。この割り当て回路は、種類の異なるネットワーク向けに再構成して、アプリケーションを最初に実行する際に適用することも可能だという。
MITの研究チームはISSCCのプレゼンテーションで、Eyerissを使って、画像認識を行うニューラルネットワークを構築した。
Samsung ElectronicsのMobile Processor Innovation Labでシニアバイスプレジデントを務めるMike Polley氏は、「MITの論文は、ハードウェア上の実験結果を報告しているだけでない。同技術を業界標準のネットワークアーキテクチャである『AlexNet』や『Caffe』に対応させることで、アプリケーション開発者がこの組み込みコアを使いやすいように時間をかけて検討された経緯も示されている」と解説している。
なお、MITの研究は、米国防高等研究計画局(DARPA)から資金援助を受けて実施されている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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