NEDOは、全固体電池の性能に大きな影響を与えるイオン伝導のメカニズムをリチウムイオン伝導率の高い硫化物ガラスで明らかにしたと発表した。
京都大学、トヨタ自動車などの研究グループは2016年2月22日、全固体電解質の中でもリチウムイオン電池伝導率が高いとされる硫化物ガラスの構造とイオン伝導の相関性について原子/電子レベルでの解明に成功したと発表した。全固体電池の性能に大きな影響を与えるイオン伝導のメカニズムを解明したことで、新しいガラス電解質を用いた蓄電池の大幅な特性向上につながることが期待される。
同研究は、13大学、4研究機関、13企業が参画する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)事業」の一環として実施。同プロジェクトは、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指している。
今回の研究成果は、リチウムイオン電池に使用されている電解液を固体電解質に変えた全固体電池の性能向上の前提になる固体電解質のイオン伝導メカニズムを解明したものだ。なお、全固体電池は、電解液を使用した現行のリチウムイオン電池よりも電気自動車の走行距離延伸や安全性を高める電池として開発が活発に進められている。
研究グループは、さまざまな固体電解質の中でも、高いイオン伝導率を示し、材料の組成や構造の乱れ具合によってリチウムイオン伝導率が異なるリン導入硫化物(Li2S-P2S5系)の原子配列(構造)とその電子状態を詳細に解析。その結果、骨格構造(PSx)ユニットの分極性がキャリア(電荷担体)であるリチウムイオン濃度に強く影響を与えることを発見したとする。
具体的には、「ラマン分光」「高エネルギーX線回折」「中性子線回折」「第一原理理論計算・逆モンテカルロ計算」といったシミュレーション技術などの複数の高度解析技術を相補的に組み合わせた解析を実施した。まず、同解析技術を駆使して、リチウムイオンの濃度を変化させた3種類の硫化物ガラス電解質材料の骨格構造を可視化。その結果、リチウムイオン濃度が増加するにつれて、特定の骨格構造(PS4ユニット)が増加することが分かった。
また、この実験データを踏まえて、第一原理理論計算・逆モンテカルロ計算などのシミュレーションにより、硫化物ガラス電解質の構造と電子状態のモデリングを実施。その結果、リチウムイオンの濃度が増加するにつれて、骨格構造ユニットとリチウムイオンはS(硫黄)原子を辺共有するようになり、分極性の影響を受けやすくなることが判明した。
これらの解析結果から、ガラス骨格構造の分極効果を最大限に高めつつ、キャリアであるリチウムイオン濃度を増やすことが高いイオン伝導率実現の要因となることを原子・電子レベルで明らかになった。
NEDOは「この成果は、次世代ガラス電解質のイオン伝導性の向上に関して新しい設計コンセプトを示すもので、新しいガラス電解質を用いた蓄電池の大幅な特性向上につながることが期待される。今後も世界最高レベルの高度解析技術を駆使することにより次世代リチウムイオン電池材料開発のブレークスルーおよび革新型蓄電池の実現を目指す」としている。
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