MRAMメーカーのEverspin Technologiesが、56MビットのST-MRAM(スピン注入磁化反転型MRAM)のサンプル出荷を開始した。
MRAMメーカーEverspin Technologiesは、不揮発メモリの用途を拡大すべく、エンタープライズストレージにおいてDRAMを置き換えるための取り組みを進めてきた。
同社は最近、256MビットのST-MRAM(スピン注入磁化反転型MRAM)のサンプル出荷を開始したと発表した。現在市場に投入されている製品の中でも、最高レベルの記録密度を実現したという。DDR3/DDR4インタフェースを使用するストレージデバイスやサーバで、永続性メモリを必要とする用途をターゲットとしていく考えだ。
Everspin TechnologiesのCEO(最高経営責任者)であるPhill LoPresti氏は、EE Timesとの電話インタビューの中で、「当社のST-MRAMはこれまで、ストレージやサーバを手掛けるOEM企業からの評価を得てきた。今後、MRAMベースのストレージクラスメモリ(SCM)の密度をさらに高めることにより、2016年中には、独自開発によるpMTJ(垂直磁化トンネル接合) ST-MRAMをベースとした1Gビット品のサンプル出荷を開始できる見込みだ」と述べている。
Everspin Technologiesは、2008年にMRAM事業に参入した。LoPresti氏は、「われわれは当初から、SRAMを置き換える製品の開発に注力してきた。とはいえ、当社は今後もSRAM市場に貢献していく考えだ」と述べる。
さらに同氏は、「現在、自動車市場においては、新たなチャンスが次々と生まれている。その一例が、広い帯域幅と優れた耐久性を必要とするADAS(先進運転支援システム)だ。当社にとって最も重要なRAID分野は、当社のMRAMに対する需要全体の約40%を占めている。産業用制御向けの需要が全体の35%を、自動車/輸送向けが残りの大半を占める」と述べている。
LoPresti氏は、「永続的なDRAMの市場は、永続的なSRAMの市場に比べてはるかに規模が大きい。256Mビットの新しい高密度ST-MRAMは、SSDなどの第1階層ストレージのホットデータを保護することが可能だ。飛行機内でもデータを保護できるため、電源の信頼性の低さや、NAND型フラッシュメモリなどの永続性メモリの書き込み性能の低さに起因するデータ破損を心配する必要がなくなる」と述べている。
Everspin Technologiesは、ディスクリートST-MRAM製品とNVDIMMの両方を提供する予定だとしている。NVDIMMを使用すれば、電源停止時に必要とされるDRAMとNANDフラッシュ間のデータ伝送が不要になるため、信頼性が向上する。LoPresti氏は、「当社は、256MビットST-MRAMを提供することで、SSDベースのストレージ市場への参入を実現できるようになる。また近々、容量が1Gビットの製品も発表する予定だ。256Mビット品は、エントリーレベル向けの製品ということになる」と述べている。
MRAMの開発を手掛けるメーカーは他にもあるが、Everspin Technologiesは、MRAMで商業的に成功している唯一のメーカーといってもよいだろう。その他のメーカーとしては、例えばAvalanche Technologyが2015年に、ST-MRAMチップのサンプリングを開始した。サンプリングを開始したのは、SPIインタフェースを備えた32Mビット/64MビットのST-MRAMデバイス(55nmプロセスで製造)である。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.