では、ここで一度、話を元に戻します。
2011年3月11日の、あの大地震の恐怖は今でも忘れられません。私は、横浜のオフィスの床にはいつくばって、永遠とも思われえるような激しい揺れの中で、恐怖におびえていました。その恐怖は、原子炉格納庫の爆発映像でピークを迎えるのです(参考)が、それはさておき。
あの日から、鉄道での人身事故がピタリとなくなりました。
来る日も来る日も、列車が定刻通りにやってきて、気持ち悪いくらい ―― そんな感じだったことを、よく覚えています。
そこで私は、2011年の飛び込み自殺者数が激減したのは、3・11震災と災厄(災害救助、原発事故)によって、太平洋戦争前または戦争中のような、国民の団結感が発生したためである、という仮説を上げてみました。
この仮説の検証は、簡単だと思っていました。そんなデータはすぐにでも出てくるだろうと思っていたからです。
ところが、この仮説を裏づけるデータが、どこを、どうひっくり返しても、出てこないのです。
国土交通省の鉄道事故のデータや、全国鉄道人身事故ランキングなどのデータから、2011年を中心として、鉄道の人身事故の事故件数を積み上げてみました。
しかし、2011年だけ特別に鉄道の人身事故が減っている、という根拠となるべき数値を見つけだすことができませんでした。
そして、私のこの仮説にとどめを刺したのは、以下のグラフでした。
わが国の年間自殺者数は、2008年から順調に減り続けているのですが、「飛び込み自殺者数」だけが減少していない ―― 停滞し続けているのです。それどころか、震災後にわずかながら増加しています。日本全体の自殺者数が減っているのにもかかわらず、です。
―― 3・11震災後も、鉄道の人身事故だけが減ってない
ここに『太平洋戦争時の自殺率をケーススタディーとして、3・11震災後の鉄道への飛び込み自殺者数の減少を説明できる』とする私の仮説は、真逆の事実を突き付けられて、ガラガラと音を立てて崩れ去ったのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.