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「江バ電」で人身事故をシミュレーションしてみた世界を「数字」で回してみよう(31) 人身事故(9/9 ページ)

» 2016年06月29日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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実は“鉄ちゃん”だった……! 後輩コメント

画像はイメージです

後輩:「『江バ電』、なんか思ったのと違う」

江端:「『計算がざっくりすぎる』って言いたいんだろう」

後輩:「いや、まったく鉄道を愛している感じがしないんですよね」

江端:「愛?」

後輩:「鉄道へのリスペクトとというか、こだわりというか、そういうものが全く見当りません。そもそも『江バ電』が走っている姿が想像できません。もう、この段階でダメです」

江端:「はぁ……」

後輩:「江端さん、『江バ電』が走っている姿をイメージできていますか? こだわりの車両のデザイン、特注した車両の機材、各駅の建物の作りの差、美しい沿線の風景、鉄道システムをつくりあげたエンジニア、ダイヤ作成者の執念、そして何よりも、鉄道を利用する乗客の表情、心情、そして人生……」

江端:「鉄道運行シミュレーターに、そこまで求めるか?」

後輩:「そこですよ、そこ。結局のところ、目に見えない『愛』というものの存在を証明するためには、こだわりというか、そういうものに思いをはせられるかどうかで決まるんです」

江端:「そうかなぁ?」

後輩:「私は、これまでずーっと『愛なきコラムに価値なし』と言い続けてきましたよね。今回は、『日本人固有のプラットフォーム』に気づいたという点で、『あぁ江端さんもようやく、人並みの人間になってきたか』と、少し安心したのですけどね」

江端:「私は、毎回、毎回、よくそこまで、私をDisるフレーズを思い付けるのか、そっちの方が不思議だよ」

後輩:「それがなんですか、この『江バ電』に対する愛のなさは!」

江端:「そっちかよ!」

後輩:「事故に対応しなくちゃいけない『江バ電』社員への気遣いもない」

江端:「なんか論点がどんどんずれていっているぞ」

後輩:「あと、江端さんの自己分析による震災についての『忘却曲線』ですが、結局『江端さんの当事者意識が低い』ってだけのことですからね。一般化しないでくださいよ」

江端:「まぁ、そこは自分でも驚いたし、反省すべき点だは思っているが……」

後輩:「エンジニアだったら、震災の経験を通じてどう技術で貢献するか? どんな社会にするかってのを考えるもんでしょうが。『江バ電』のどこにその工夫があるってんですか?」

江端:「ちょっと待て。私は今回、鉄道システムの研究開発の話はしていないぞ。その論点の持って行き方、悪意すら感じるぞ」

後輩:「江端さんに『愛』があることをちょっとでも期待した私が愚かでした。あ、でも江バ電の遅延の数値解析は面白いと思いましたよ。次回も期待しています。じゃあ、私、忙しいんで、これで」

超シンプル! 『江バ電』シミュレーター

 ソースコードは、こちらに置いておきます。プログラムの先頭にあるコマンドで、コンパイルしてみてください。

 もしコンパイルがうまくいかなかったら、実行ファイルをお送り致しますので、ご連絡ください。

担当Mさんのつぶやき

 今回のコラムは、江バ電のシミュレーションはもちろん面白かったのですが、「死」にまつわる語彙のくだりにも興味を覚えました。

 「死」の語彙の例とは反対に、「すばらしい」を表す日本語の語彙が、欧米の言語に比べて少ないという話を、通訳者さんの本で読んだことがあります。

 いわゆる「すっご〜〜〜い!」に相当する単語(特に口語)が、英語だったら、good, great, tremendous, amazing, marvelous, spectacular, awesome, stunning, terrific...などなど数え切れないくらい数があるのに、日本語は少なくて、通訳時に「すばらしい」「すごい」の一辺倒になってしまって、ちょっと悩む……というお話でした。

 でも、日本人の気質を考えると、なんとなく納得がいくお話でした。

(このコメントを読んだ、江端の感想)

 なるほど。

 「スッゲー、スッゲー」を連呼する、頭の悪そうなニイちゃんの言動は、「ニイちゃんの知性に問題がある」のではなく、「日本語の語彙の少なさに問題がある」という新解釈ができそうです。


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Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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