今回の連載を開始する前に、私は、日本人の「生死観」ではなく「死観」をいろいろと調べてみました。その話は、この連載のスコープ外なので語りませんが、1つの例をご紹介しておきます。
日本は「自殺」の表現を、細分化、体系化することに関して、世界でもめずらしい国のようです。
世界各国の「自殺」の表現を調べてみると、
があります。
もっとも、現在の英語の辞典では、もっといろいろな表現は出てきますが、これは日本の文学やメディアの影響を受けて、新しく追加された表現(ハラキリなど)のようです。
一方、日本では――
自殺、自決、自害、自裁、自滅、殉死、追腹、情死、焼身、失恋死、厭世死、抗議死、無念腹、諫死、粗忽死、切腹、自刃、割腹、屠腹、詰腹、扇子腹、水腹、手腹、介錯、入水死、身投げ、投身、縊死、首縊り、首吊り、飛び込み、飛び降り、服毒、ガス、自爆、拳銃自殺、心中、後追い、無理心中、一家心中、差し違え、玉砕、人身御供、人柱、殉国、決死、特攻、死に花、狂言、自殺未遂、死に損ない ―― ここまでで、52種類。
今回、これらの用語の全てをGoogle翻訳先生に翻訳してもらったのですが、―― おおむね、その翻訳結果は間違ってはいないんですが ―― 正直言って、何か違う。
しかし、私は、Google翻訳先生を責める気持ちにはなれないのですよ。
そもそも、「死」というのは、単なるオブジェクトの状態に過ぎません。その状態をさらに詳しく表現したいのであれば「手段、状態」の形容詞+「死」という複合名詞だけで、十分に表現できるはずです。
しかし、私たち日本人の多くが、これらの用語の微妙なニュアンスを理解し、そして日常的に使い分けることができます。
これが、冒頭で説明した「日本人固有の思想のプラットフォーム」なのでしょう。
そして、私たちは、その「死」の用語の使い方を間違えると、とんでもない批判にさらされ、社会的な制裁を食らうことも、よく知っています。
日本の中にいると見えてこないのですが、こうして世界を比較してみると、確かに、日本という国は、こと「死」に関しては、なかなか興味深い「日本人固有の思想のプラットフォーム」を持っているようです。
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