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» 2016年07月19日 11時30分 公開

だから減らない? 鉄道への飛び込みは“お手軽”か世界を「数字」で回してみよう(32) 人身事故(7/8 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

1つの疑問

 しかし、ここに1つの疑問が生じます。

 前述した通り、わが国は、戦後にクスリによる自殺率を激減させたという実績があります。

 薬事法で自殺しやすいクスリ(バルビツール塩酸などを含む)の処方を制限し、クスリに改造を加えて、クスリによる自殺を、事実上、不可能にすることに成功しました。

 「人間には生きる意義があるのですよ」とか、「自殺は神に対する冒とくです」とか「悲しむ人がいます」とか、そういう、口先だけの優しいフレーズのたぐいではなく ―― それは、力づくで自殺を抑えこむ戦略であり、結局、それが一番効果的だったという事実です。

 とすれば、鉄道への飛び込み自殺を防止するアプローチも、同じ戦略を採れば良いはずです。

 つまり、「鉄道を使った飛び込み自殺」を物理的かつ力づくで抑え込み、自殺を完遂するまでのコストを、思いっきり上げてやれば良いのです。

 では、今回はここまでにしたいと思います。

 そろそろ、今回のアンケートに申し込みを頂いた方(現時点で30人)のお知恵を拝借しに参上致しますので、皆さん、何とぞよろしくお願いします(期待しています)。


 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】近年、鉄道の人身事故を発生させている原因として、「酔っぱらい」による車両接触、ホームからの落下が増加していることが分かった。私達が、帰宅時に事故の巻き込まれた時、「酔っぱらい」が原因である確率は高い

【2】国土交通省に開示してもらった過去10年分の事故報告書によれば、鉄道の人身事故において「飛び込み自殺」による、平均遅延時間は70分であるが、そのバラツキは非常に大きい(標準偏差で約40分)ので、絶対に遅刻できない約束がある場合などは、2時間30分前到着くらいを視野に入れておかないと、安心はできない

【3】上記の事故報告書の文章を解析した結果、(a)女性による飛び込み自殺の事故の規模は小さくなる傾向(死体がバラバラにならないなど)があること、(b)自殺の事故の規模は大きくなるほど、「警察」や「現場検証」が登場してくること、また、(c)事故の規模が大きくなると、その原因が曖昧にされがち(「飛び降りる」と「飛び込む」を区別しなくなる)になることなどの傾向が推認できた

【4】鉄道を使った飛び込み自殺は、他の自殺と比べてお手軽である」という仮説を立てた上で、以下の2つの論を展開した

【5】飛び込み自殺は、自動車事故のように、事故の被害にあった人間の状況を想像できるような映像(運転席が完全につぶされ、車体が路上に散乱した悲惨な状態の事故車両など)を表示することができないため、自殺の惨状をイメージしにくい

【6】飛び込み自殺を、自殺の立案から実行までのコスト(実行後の第三者への損害は一切考慮せず)から分析した結果、他の自殺の手段を圧倒する、抜群のコストパフォーマンスが確認された。すなわち、自殺を望む人々にとって、鉄道を使った飛び込み自殺は最適戦略であるといえる

 では、次回くらいから、鉄道を使った飛び込み自殺の具体的な防止方法について、(その難しさも含めて)、アンケートに応じていただいた皆さんからのお知恵も拝借しながら、検討を始めてみたいと思います。

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