では、実際に発売された28nm版SoFIAのCPUコアは、何なのだろうか? Bay Trail と同じAtomコアを搭載する22nm版SoFIAと、28nm版SoFIAのCPUコア部を拡大して、見比べていこう(図5)。
図5右の22nm版のAtomコアは手の込んだデータパスという手法を用いたコア形状となっている。一方、製品化された28nm版SoFIAのCPUコア部は「シンセシス設計」と呼ばれる論理合成&自動レイアウト手法を用いた結果になっている。Atomコアを機能記述にして、シンセシス設計で作った可能性が高い。だが、ひょっとすると「Atomではない別のコア」が使われている可能性さえも思い浮かんでしまう……。なぜかというと、シンセシス設計こそが、ARMコアの成長の原点だった。そのシンセシス設計に合わせて、IntelがAtomコアを作り直した可能性は十分にありうる話だろう。
自社に製造ラインがない28nmプロセスの採用に加え、それまでのAtomとは異なるシンセシス設計のCPUコアを用いたSoFIAは、それまでのIntel製品とは全く異質のものになっている。いわば、競合のARMコアと全く同じフィールドで開発されたわけだ。
そして、SoFIAは、ARMコアで動作するAndroid 5.0以上のOSに対応した――。
しかしながら結果的にSoFIAは、ARMコアを採用するQualcommやMediaTekを追撃し、キャッチアップするには至らなかった。この事実こそが撤退の最大の理由といえるだろう。しかし同時に、従来のインテルの開発手法と異なり、かつ、自社工場の回転率を上げるわけでもないSoFIAプラットフォームを「異物」として扱い始めていたのではないだろうか。だからこそ、2015年のRockchipなどとの提携に及んだのではなかろうか。Intelは最初、中国メーカーに事業売却を持ちかけていたかもしれない。そう、“異物であるSoFIA”を中国に押し付けてしまえと……。
Intelは今なお巨大なIDMである。自社工場の稼働率を高め、その上で価値を創生し、売り上げを確保する製品こそが、“正統的なインテル・チップ”である(ファブレス以外のメーカーにとってこの考え方は当然のこと!!)。
そうした中で、Intelが2000年以降、何度もトライした通信チップの獲得はあくまでも、“正統的なインテルプロセッサ”という「主役」の売り上げを拡大するための「脇役」にすぎなかったのではなかろうか。ゆえに、買収した事業部門に自社工場の活用を強要しなかったと、思えてならない。
以上は、Intelの発表資料やチップ観察から得た情報をつなぎ合わせた仮説である。しかし、この仮説が正しいと言わんばかりに、Intelは、まるで「異端児」を追い払うかのようにSoFIAプロセッサからの撤退を宣言した。
そう考えると、SoFIAからの撤退理由は「ARMやQualcommに敗北したから」ではなく、正統なインテル・チップとは呼べない「異端児」「異質の厄介者」を追い払っただけなのかもしれない。
次回(2016年9月下旬掲載予定)はIntelのボードPC「Edison」と、AppleとともにIntelが開発したインタフェース「Thunderbolt」について言及したい。これもIntelにとって「異質」の存在であったからだ。
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ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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