孫氏はこれまで、度々大きな賭けに出ることでソフトバンクの変革を成し遂げてきた。大きな利益がもたらされる時もあれば、勢いを削ぐような結果となる場合もあった。
Demler氏は、「孫氏は、YahooとAlibabaの買収によって優れた投資実績を実現したことを誇っているようだが、Sprintの存在を都合よく無視しているのではないか」と指摘する。現在も苦戦が続く米国の通信事業者Sprintは、ソフトバンクの傘下にある。
ソフトバンクが利益を得た買収案件としては、2000年に2000万米ドルを投じて買収した、eコマースのAlibaba Group Holdingが挙げられる。その企業価値は現在、650億米ドルに達する。また、ソフトバンクは2006年に、Vodafoneの日本国内の不採算部門を150億米ドルで買収したことにより、市場第3位の通信事業者としての位置付けを獲得することができた。
ソフトバンクはここ数カ月の間に、Alibabaと、スマートフォンゲーム開発メーカーであるガンホー・オンライン・エンターテイメント、フィンランドのモバイルゲームプロバイダーSupercellの株式を売却することで、180億米ドル(2兆円)の資金を調達していたという。
今回ARMの買収を実現できた背景に、孫氏の大胆さと、資金調達があったのは間違いないだろう。
孫氏は、ARMの買収を発表するにあたり、ソフトバンクの次なる成長の原動力として、IoTと人工知能(AI)を大々的に取り上げている。
しかし、ここに問題がある。
ソフトバンクは、ARMの競合相手でも顧客でもない。このため、孫氏が自分の投資ポートフォリを拡大したいという目的以外に、なぜARMを必要とするのかがよく分からないのだ。
The Linley Groupの Demler氏は、「ソフトバンクが今回ARMを買収した最大の要因は、孫氏がIoTに対して“根拠なき熱狂”を示しているためではないか」と推測する。
Demler氏は、「孫氏はこれまでに、インターネットへの投資を成功させている。このため、IoTについても同様に考えているのではないだろうか。しかし、IoT事業のハードウェアの側面に関しては全く別物だということを、同氏が理解しているという確証はない」と指摘する。
ただ、もし全てがうまくいけば、IoT市場においてハードウェア事業に資金を提供するためのサービスプロバイダーを確保するのは、悪いことではない。「ソフトバンクには、モバイルサービスプロバイダーとして、IoT市場を進展させる役割がある」とする見方もあるだろう。
AIについても同様に、孫氏の根拠なき熱狂の一例といえるかもしれない。しかし、孫氏のロボットに対する情熱は、これまでにも広く知られている。
ソフトバンクは2014年に、フランス パリを拠点とする新興企業Aldebaran Roboticsとの協業により、業界初となる、人間の感情を理解することが可能なロボットを開発している。
ソフトバンクが推進している人型ロボット「Pepper」は、“感情”を持つとされる。Pepperは、人間に近づいて会話できるため、看護師やベビーシッター、持ち運びが可能なエンターテイナーに至るまで、さまざまな役割を担うと期待されている。
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