ソフトバンクの前プレジデントを務め、最近退任を発表したNikesh Arora氏は、米Fortune誌のインタビューの中で、「孫氏はいつも、驚くほど熱意にあふれている」と語っている。
Arora氏は、「孫氏は非常に前向きであるため、楽観視しすぎて我を忘れてしまうこともある。同氏と一緒に何かを成し遂げるには、そのような同氏の熱意をなだめることが必要な場合もある」と述べる。
またArora氏は、孫氏のロボットに対する情熱について、「孫氏は、1分ごとに新たなアイデアを生み出す。最近では、ソフトバンクの取締役会において、『心を持ったロボットを作りたい』という突拍子もない展望を語った。脳の理性をつかさどる部位として、IBMの人工知能『Watson』を採用し、そこに感情を担当する部位を構築するという。私には正気の沙汰とは思えなかったが、孫氏はそれを実行した。現在、1カ月当たり1000台を売り上げている」と述べている。
孫氏が普通のCEOでないのはよく分かるが、ソフトバンクもまた普通の公開会社ではないといえるだろう。同社はWebサイト上で、企業グループとしての今後30年間の成長について、展望を語っている。
同社はその中で、「ソフトバンクは情報業界の中で、その時々に最も優秀な企業と協業関係を構築することにより、特定の技術やビジネスモデルに執着することなく、長期にわたって開発活動に取り組んでいく」と述べている。
また、「自ら進化し、自己増殖することによって、相乗効果をもたらし合う戦略的なグループを構築し、今後30年の間に、同じ展望を共有するグループ企業を5000社まで拡大したいと考えている」という。
大言壮語と誇大妄想とは別物だ。ARMの買収が多少の気休めになったとしても、ソフトバンクは今後長年にわたって取り組んでいくことになるだろう。
米国の市場調査会社であるTirias Researchで主席アナリストを務めるJim McGregor氏は、それほど心配していないようだ。同氏は、「ARMの買収によって、ARMのライセンシー(ライセンス供与先)に影響が及ぶことはないだろう。ソフトバンクは、半導体業界には属しておらず、構造的にも、ARMと同じように中立的なサードパーティー企業であるためだ」と説明する。
またMcGregor氏は、「それどころか、ARMがモバイル機器や民生機器市場に影響を及ぼしたように、ソフトバンクの投資が、IoTやネットワーキング、通信などの市場に、イノベーションと価格低下をもたらすと期待される」と述べる。
さらに同氏は、「ライセンシーからは、ライセンス料の値上がりを懸念する声が上がっているが、その心配はないだろう。ソフトバンクが、成功しているビジネスモデルに干渉するとは考えられないし、半導体業界にとって価格の低下は、経済的基盤となるためだ」と付け加えた。
一方、The Linley GroupのDemler氏は、かなり懸念しているようだ。
同氏は、ソフトバンクがARMにもたらすであろう影響について問われると、「残念ながら、まずはARMのオープン性が低下するのではないかとみている」と述べている。Demler氏は、「株式公開企業であることによって、ARMはアナリストや半導体エコシステムと密に連携が取れてきた」と説明する。「(オープン性が低下する可能性について)自分の予想が間違っていると思いたいが、これについてはいずれ分かるだろう」(同氏)
Demler氏は、「孫氏はARMの英国での雇用を今後5年間で2倍にすると言っている。だが、雇用者数が少ないことは、ARMの成長を妨げる要因や、顧客へのサポートに影響する要因になってきたとは思えない。心配なのは、ARMの主要な設計者たちが、今回の買収によって去ってしまわないかということだ。これはどの買収案件でも起こり得る懸念である」と続けた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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