研究チームは作成したデバイスを使って、さまざまな物質がどのように内部を流れるのかを調べた。水や水蒸気、水中のイオン、ヘリウムガスについて検証した。
まずは水だ。湿度0%、21℃の環境下で高さ(N)が異なる細管に50時間にわたって水を通した。流れる量は当然のように時間に比例した。高い細管(N=30)から順に調べてくと、細くなるにつれて流量が減る。例えば低い細管(N=9)ではN=30の場合の約3分の1になった。流れる量がNに比例するように見える。
ところが、N=7から流量が増え始め、N=5ではN=30の約2倍、N=4の場合はN=30の約2.8倍も流れた。細い管の方が流れやすいことになる。Geim氏はこれほど印象的な結果が得られるとは考えていなかったという。結局、N=2〜30の範囲では、N=9で流量が最小値になった。
分子動力学シミュレーションでは、N=5とN=7で最大値に達し、最小値となるのはN=16の場合。Geim氏によれば、実験結果を理論がよく説明しているという。
ヘリウムガスを用いた実験はどうなったのだろうか。ヘリウムは単原子分子であり、電気的には単純な球として扱うことができる。3原子が組み合わさって分極した水分子とは違う結果が得られそうだ。
結論から言えば、N=5の場合の流量は、N=45の場合の3倍以上となった。水と似た傾向である。
グラフェンで作成した今回の細孔の研究は、今後どのように発展していくのだろうか。Geim氏は、さらなるファンデルワールスアセンブリー技術の応用を考えている。
グラフェンとは異なる2次元結晶を用いることで、疎水性を制御でき、内部を通過する分子との関係を調整できる。例えば親水性が高い分子を選択的に通過させることができるかもしれない。
さらに窒化ホウ素や雲母など誘電体となる2次元結晶を利用すれば、ゲート電圧を利用することでイオン性分子を通したり、通さなかったり、自在にコントロールできそうだ。スイッチング動作が可能な一種の分子トランジスタである。
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