オバマ大統領の政権下でV2X(Vehicle to Everything)通信の義務化を実現するのは、難しいかもしれない――。ある専門家は、このように懸念しているようだ。
自動車・半導体業界のコンサルタントを務めるDrue Freeman氏は今、寿命の縮む思いなのではないだろうか。
Freeman氏が被害妄想を持っているのではない。同氏の不安をかき立てているのは、「米国政府は2016年末までに、コネクテッドカーの実用化を義務付ける約束を本当に果たすことができるのだろうか。それとも、2016年11月の米大統領選で新しい政権が誕生すれば、さまざまな新しい自動運転車技術が見限られることになるのだろうか」という問題だ。
Freeman氏が言う“コネクテッドカー”とは、つまり、V2V(車車間)/V2I(車路間通信)を組み合わせたV2X通信をベースとする、DSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)のことである。
多くのV2X提唱者たちは、「DSRCは、既に実世界において十分な検証と試験を重ね、デモ実演にも成功していることから、人命救助を実現可能な技術であると実証済みだ」と考えている。市場調査の結果からも、インフラやアプリケーションへの投資を加速させるためには、DSRCの義務化が必要であることが分かっている。
Freeman氏は、「V2Xの義務化は、オバマ政権が終わりを迎えるまでの100日以内に、米国運輸長官であるAnthony Foxx氏の在職中に実現すべきである。連邦政府の関与なしに、米国内でV2X義務化を実現するのは不可能だ。新大統領に誰が就任しても、2017年1月に新政権が動き出せば、新たなアジェンダの策定にかかりきりになり、V2Xは忘れ去られる恐れがある」と主張する。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は2014年8月に、DSRCに関する規則の事前公告(ANPRM:Advanced Notice of Proposed Rule Making)を発行し、それを補足するV2V通信技術関連の包括的な研究レポートを提出している。
その後60日間の公衆意見聴取期間を経て、NHTSAは、規則制定案告示(NPRM:Notice of Proposed Rulemaking)を策定し、2016年1月に行政予算管理局に提出している。
NHTSAは、技術業界の圧力を受けながらも、現在まだV2X義務化を実現するには至っていない。当初の予定では、2015年秋をメドに実行するはずだったが、2016年半ばに延期された(同年第4四半期にずれ込むとの予測もあった)。しかし、その2016年半ばを過ぎても、NHTSAは何の動きも見せていない。
Freeman氏はEE Timesのインタビューに対し、「ITS America(Intelligent Transportation Society of America)をはじめとする信頼のおける団体が、『V2X義務化は間違いなく実現する』と繰り返し主張している」と述べている。
また同氏は、「現行のオバマ政権には、もう100日しか残されていない。私としては、何も手を出さずに待っているわけにはいかない」とも述べた。
同氏はオバマ政権に対し、「Obama Administration’s Final 100 Days - Leaving a Legacy of Saving Lives on our Highways(オバマ政権最後の100日、高速道路での人命救助が可能な技術を実現しないまま終わるのか)」と題する公開質問状を送付したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.