エジソンプロジェクトで、グンゼの編む技術と回路設計技術の組み合わせを考えたときに生まれたのが、ウェアラブルシステムだ。同社は、一般的な工業材料で導電性ニット線材を開発してきた。導電性ニットは、金属メッキ糸やエナメル銅線などの導電性繊維をニットに編んだもので、柔軟性と伸縮性を持つ。
今回、伸縮率によって抵抗が変化する銀メッキ糸ニットを開発。シート状で伸縮しない導電性素材を扱う企業はあるが、同社のように編み込んで伸縮性を持たせるのは技術的に難しいという。肌着やインナーで培った編む技術が、伸縮する導電性素材を実現させた。
2015年1月に開催された「第1回 ウェアラブルEXPO」でグンゼが行った提案は、伸縮率によって抵抗が変化する導電性ニットのシーズ提案が中心だった。その展示をきっかけに、現在共同で開発を進めるNECと出会い、2016年1月開催の第2回 ウェアラブルEXPOで、ソリューション全体としての提案にまで至っている。
しかし、姿勢を検知することを決断するまでには、紆余(うよ)曲折があった。伸び縮みが分かれば、曲げ伸ばしを行うさまざまな箇所の動作を検知できるからだ。多くの選択肢がある中、ビジネスモデルも検討しなければいけない。そんな時に、たまたまグンゼスポーツと話をしたところ、姿勢はトレーニングの基本であり、ダイエットに猫背の改善が重要視されることから、姿勢検知が付加価値を提供できることに気が付いたという。
グンゼ新規事業推進室の鴻野勝正氏は、「“とがったこと”をやりたかった。ウェアラブル端末で、バイタル情報が分かるのは当たり前である。どこか伸び縮みする箇所を検知することで、ユーザーに有益な情報を取得できないかとNECとアイデアを出してきた。答えとしてたどり着いたのが、肩甲骨の伸び縮みによる姿勢検知だった」と語る。
グンゼは、コーポ―レートメッセージに、“明日をもっと、ここちよく”を掲げる。ウェアラブルシステムは、導電性繊維をニットに編み込んでいるが、普通のTシャツを着るのと変わらない着心地の良さを重視。耐久性も普通のTシャツと変わらないため、洗濯をしても1年間は着ることが可能である。これらも、競合企業と比較した優位性としている*)。
*)心拍の計測をする場合は、体に密着している必要があるため、少し締め付けるような形になってしまう。
しかし、冒頭にも挙げたように、着るウェアラブルが普及するにはハードルは高いように感じる。佐藤氏と鴻野氏は、「確かに、わざわざ着なければいけないハードルは高い。そのため、グンゼスポーツや従業員管理を入口に挑戦していく。普通のTシャツと比較して違和感がない着心地の良さを体験してもらえたら、さまざまな用途で普及できると考えている」と強調する。
また、普及を考える上で価格も重要な要素になる。先行する企業よりは低価格帯にする予定としており、量産化が進めば「数千円レベルにしたい」(佐藤氏)とする。
現在、実証実験で得つつある知見を元に、ウェアラブル端末の小型化、使い勝手の改善を進めている。そして、2017年春には製品化し、まずはグンゼスポーツの会員サービスとして提供するつもりだ。
量産化が進めば、着る健康管理が当たり前になる時代がやってくるかもしれない――。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.