とはいえ、誰もがルネサスの逆転ストーリーに完全に納得しているわけではない。
ルネサスは近年、継続的なリストラに直面しつつ、目立たないながらも自動車市場での地位を維持してきた。一方で、NVIDIAやIntel、Mobileyeは、自動運転車の開発で注目と集めるメーカーの戦略的技術パートナーとして、注目を集めている。
ルネサスには、これらのライバルに正面から立ち向かい、自動運転車の市場にさらに深く入り込むだけの資金力があるのだろうか。市場勢力図の中で、ルネサスがぴたりと収まる位置はどこにあるのだろうか。
例えばAudi(アウディ)は、自動運転プラットフォームの構築を巡る競争の中で、Delphi Automotive(デルファイ・オートモーティブ)とともに、NVIDIAとMobileyeのチップを統合した「zFAS」の開発に取り組んでいる。BMW、Intel、Mobileyeは2016年7月、オープンソースの自動運転プラットフォームの実現に向け協業すると発表した。さらに、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は、あるティア1サプライヤーとともに、自動運転プラットフォームの開発に取り組んでいると伝えられている。
鈴木氏は、これらの動きにも動じていないようだ。自動運転市場は黎明(れいめい)期にある。ルネサスには独自の戦略が2つあり、それらは競合各社とは全く異なるものだと鈴木氏は説明した。
1つは、IntelやNVIDIAとは異なり、ルネサスは、強力な処理性能を備えた大規模なCPU/GPUによって、自動運転向けチップをめぐる競争に勝とうとはしてない、ということである。ルネサスはむしろ、同社が長年にわたり培ってきたIP(Intellectual Property)コアによって勝とうとしている。同IPコア技術は、自動運転車の“脳”に当たる部分に搭載されている。ルネサスの目標は、「車載アプリケーション向けに開発された、低消費電力の自動運転用SoCを開発すること」だと鈴木氏は説明した。
2つ目は、ルネサスが、車載ソフトウェアについて、極めて高い専門性を持つ大規模なコミュニティーを構築に既に取り掛かっていることが挙げられるという。
高級車に搭載されるソフトウェアのコードサイズは、今後20年で300倍に増加するとみられている。鈴木氏は、こうした状況において、ソフトウェア開発者向けの開発ツールやプラットフォームが鍵になると考えている。ルネサスは現在、2種類のR-Carスタータキットを展開している。シンプルで高性能な車載コンピューティングシステムに適用できるSoC「R-Car M3」を搭載した「R-CarスタータキットPro」と、ハイエンドSoC「R-Car H3」を搭載した「R-CarスタータキットPremier」である。
これらの2製品は、コード互換性を維持すべく拡張できるように設計されているので、HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)からコグニティブコンピューティングまで、さまざまなアプリケーションを開発できる。ルネサスによると、同じ開発プラットフォームを用いて、実際の製品のプロトタイプを製造したり、ソフトウェアの最適化を行ったりすることも可能だという。
価格は、R-CarスタータキットProが約5万円、R-CarスタータキットPremierが約8万円(いずれも参考価格)となっている。鈴木氏は「どの開発者も独自のソフトウェアアプリケーションをすぐに開発できるように、入手しやすい価格にした」と説明した。
自動車メーカーがR-Car M3やR-Car H3をあからさまに大量に注文することはないように思える。だが鈴木氏によると、「顧客から電話がかかってきて、『新しい車載インフォテインメント(IVI)システム向けにアプリケーションを設計するため、ソフトウェア開発者を200人雇用したところだ。R-Carスタータキットを100個、至急発注したい』と言われたこともあった」という。
EETimesは、R-Carのロードマップから、Samsung Electronics(サムスン電子)によるHarman International買収まで、車載市場における注目の話題について鈴木氏にインタビューした。次回は、そのインタビューの内容を紹介する。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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