Mentorは、SiemensがIC EDAツールに対する投資を続けると考えているのだろうか。
Rhines氏は、「もちろんだ」と答えた。同氏は、「5nmプロセス技術を含む最先端のIC設計には、今後も継続的な投資が必要だ」と述べている。
Rhines氏は、Mentorの技術力をICの物理検証における“金字塔”と位置付けて、「検証とエミュレーションの両方において、われわれは業界の最先端を走り続けなければならない」と語った。
Siemensも同じ考えなのだろうか。
Grindstaff氏は、「市場の拡充を目指すSiemensにとって、IC設計は将来の事業に不可欠な要素だ。Mentorの買収は、2つの競合企業を合併して事業の合理化を図ることを目指したM&Aではない」として、「この買収は、当社にとって新たなビジネスチャンスを生むものだ」と強調した。
そうだとしても、SiemensにはEDAについての知識が不足しているという問題が残る。
Grindstaff氏は、かつて自身も勤務したことのある、米国の旧UGSの例を挙げた。Siemensはちょうど10年前の2006年12月に、PLMソフトウェアとサービスを手掛けていたUGSの買収計画を発表した。その時点では誰もが「SiemensはCADに関する知識を持っているのか?」という疑問を抱いた。Grindstaff氏は、「Siemensは当時、独自のツール事業を好調に展開しており、同事業はさらなる成長が見込まれていた。SiemensがUGSを買収する必要性を理解できる人はほとんどいなかった」と振り返った。
UGSの買収はその10年後、華麗な展開を見せる。Grindstaff氏は、「この買収はSiemens PLM Softwareの基盤となり、同社は現在、Siemensの“デジタルファクトリー”に大きく貢献している」と説明した。
Grindstaff氏は、Mentorの今後に不安を感じている人へのメッセージとして、「それが根拠のない心配にすぎないことは、SiemensがUGSへの投資を10年間続けてきたことから分かるだろう」と述べた。
Rhines氏は、「この取引は、Mentorの顧客や株主にとってプラスになると確信している」と述べている。Gridstaff氏は、「Siemensはこの買収によって、ハードウェアとソフトウェアツールの幅広いポートフォリオを集結した、業界に類のない企業になる」と述べた。
この買収は、株主の承認と規制当局による手続きの完了を待って、2017年前半に完了する見通しだ。
広く知られていることだが、Mentorは、この買収計画の発表まで、“物言う株主(アクティビスト投資家)”のElliott Managementから株主価値を高めるよう求められていた。Mentorは2016会計年度の上半期(7月31日を末日とする)で1000万米ドルの損失を計上している。2015年の同時期は2100万米ドルの利益を出していた。
今回の買収により、Mentorはアクティビスト投資家との“闘い”を終わらせることができるだろう。
産業用ソフトウェア事業を強化するというSiemensの戦略によって、Mentorはついに、ビジネス的な意味で“安住の地”を得たのかもしれない。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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