――2016年9月には、Intersil(インターシル)の買収を発表されました。
呉氏 現在、米国の国防当局、中国の独禁当局以外からの承認を得た状況で、当初の予定通り、2017年上期中に(買収が)完了する見込みだ。
Intersilは、シリコンバレーに本社を置く企業のイメージとは違い、どこかルネサスと通じる部分が多い企業文化を持つ。RCAやGE(General Electric)という大企業の半導体部門だったことがあるという点で、われわれと似ているのかもしれない。
IDM(垂直統合型デバイスメーカー)であり“ものづくり”を大切に考える企業という点も同じ。Intersilも一時、いろいろな事業に手を広げたが、現在は、産業機器や自動車など高信頼、高精度のものづくりが生かせる分野に絞り、収益力も回復し、成長を目指す段階にある。
企業文化、置かれている状況はルネサスと似ており、ルネサスの弱かったアナログ/パワーの領域を補完できる。私自身、これまでいくつものPMI(買収後の統合)を行ってきたが、ここまで親和性が高く、シナジーを期待できる買収はなかったと思っている。
――Intersilは、(ルネサスが撤退しつつある)民生機器向け事業も手掛けています。
呉氏 Intersilの民生機器向け事業の中身は、ボラタイルな(=価格変動の大きな)領域がなく、強いデバイスを良いところを抑えている。民生機器向けに限らず、買収後、Intesilの事業で整理する必要性のあるものはない。
――USB関連製品などで重複も見られます。
呉氏 USB Power Delivery(以下、USB PD)向け製品などは双方手掛けるが、両社のシェアを足して世界シェアの大半を占めるというほどのものでもなく、重複しているとは言えないと思っている。そもそもUSB PDはこれから立ち上がるアプリケーションであり、一緒になることのメリットの方が大きい。
開発面に関しては、2つ足してもまだまだ足りないと、互いに話し合っているほどだ。アナログのエンジニアは世界的に足りていない状況。そうした中で、Intersilには400人ほどのアナログのエンジニアがいる。400人のアナログエンジニアを一人一人、雇用していくとなると相当時間が必要になる。このことだけでも、今回の買収は相当大きな価値があるといえる。
――買収によるシナジーとしては、どのようなものを期待されていますか。
呉氏 ルネサスが強いマイコンの前後には必ず、Intesilが強い電源、ミックスドシグナルが必要になる。そこを補完できる点が最も大きい。ルネサスは、日本、欧州に強く、Intesilは北米、中国に強く、地域的にも補完性がある。
また、Intesilは、汎用(はんよう)製品を多く手掛け、広く汎用品を販売するノウハウがある。ルネサスはこれまで大口顧客に販売することに長けていたが、幅広く売るという部分は弱かった。今後も大口顧客との関係性は強くしていくが、マイコンなどもIoT(モノのインターネット)などに対し、幅広く売る必要があり、Intersilのやり方を学ぶことができるのは大きい。汎用的な部分については、一体的にやっていく予定だ。
逆にIntersilは産業機器には強いが、自動車市場には入りきれておらず、ルネサスの販路、ノウハウが使えるようになれば、ビジネス成長が見込める。
――今後のM&A戦略について教えてください。
呉氏 全てがそろったわけではないが、アナログ/パワーについては、(Intersilの買収という)1つの手を打つことができた。あとは、RF、センサー、セキュリティなどの分野で、必ずしも半導体メーカーにこだわらず、IPやソフトウェアなどのベンダーも含めて、買収や提携を検討している。
Intersilは、売りに出ていた“オンセール”の企業ではなく、われわれが作成したM&A/提携候補リストにあった1社で、われわれからの働きかけから合意に至った。そうしたM&A/提携候補リストは常に持っており、検討を進めている。
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