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抹殺する人工知能 〜 生存競争と自然淘汰で、最適解にたどりつくOver the AI ―― AIの向こう側に (7)(6/13 ページ)

» 2017年01月31日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

二次大戦前の世界が再来している気がする

 さて、なにはともあれ、この度「アメリカの利益を最優先に考える」と主張するトランプさんが大統領に就任しました。

 その国の首長が「自分の属するグループの利益を最優先に考える」というのは、当たり前の話で、当然の主張であるとも言えます。

 しかし、最近のヨーロッパでのEU離脱の動き、そして今回のトランプさんの基本政策案など見ていると、なんとなく第二次世界大戦前の「保護貿易」「ブロック経済」が再来してきているように思えてなりません。

 こんな感じです。

 「ブロック経済」でやっていける国(米国などの大国)は、それでもいいんですが、わが国は、その政策は取れません。ぶっちゃけ、わが国には、国民生活を自力で支えるだけの、食料も資材も資源もないからです*)

*)しかし、私たちが「鎖国」まで視野に入れればできない話ではないと思います(新連載への伏線?)

 世界不況→ブロック経済→国家間の利権(利害)対立→ファシズムの台頭→戦争→大量殺りく兵器、虐殺……と、私は2秒もあれば、上記のこの「テンプレ(テンプレート)戦前戦後史観」を、描けてしまいます。

 過去の2回の世界大戦で、人類は、『戦争を回避するためには、どの国も最低限でも、「食える状態」にだけはしておかねばならない。たった1つの国でもヤケクソにさせたら終わりだ』という学びを得ました。

 そして、その具体的な施策として、『不況になっても「ブロック」だけは絶対にやめようぜ』という国際的な合意に至り、WTO、GATT、FTA、(多分TPPも)が誕生するきっかけになりました(参考記事「かつて日本にもあった?外国技術を“マネ”するという国家戦略」)

 それともう1つ。

 国家が、特定の人間を合法的に殺りくする世界の再来が、私は死ぬほど怖いのです。

 私の考え方が、国家権力などによって「危険」であると認定され(あるいは、江端は「劣生人種」であるという認定によって)、私自身が殺されるのは仕方がないとしても ―― いや、よくはないけど ―― 私の子どもたちが私と同様に「優生ではない」(「劣勢である」)と認定されて殺されるような世界の再来だけは、カンベンしてほしいのです。

 今回、私は、「優生思想」に関する本*)を、図書館から借りまくって読んでいたのですが、―― 久々に、すさまじい鬱(うつ)になりました。

*)例えば、「優生学と人間社会」(米本 昌平他、講談社現代文庫 2000年)

 社会全体の幸福のために、人間を「優生なものと」と「そうでないもの」に分けて、「そうでないもの」を抹殺する、または誕生させないようにするという国家の福祉政策が、わが国はもちろん、ほとんどの国で実施されていて、そして現在も実施されているという事実に、打ちのめされました。

 私が最も打ちのめされたのは、もし私が為政者から「お前が、この福祉政策を"非"であるというなら、具体的かつ論理的に論証してみろ」といわれたら、当時の医学や生命科学の水準に関係なく、「私には、論駁(ろんばく)することができなかっただろう」と思えてしまったことです。

 幸いなことに、今まで、私は「殺す側」にも「殺される側」にもなることなく生き存えることができました。なんとかこのまま、残りの人生を、逃げ切りたいのです。

 もし逃げ切れない事態になった場合、私は、国家権力サイド側について、せっせと人間を選別し、抹殺する作業に加担する方向に動くような気がするのです

 ―― いや、絶対にそうだ。私はそういう奴だ。私は「殺す側」に立つ人間だ。

 なぜ私が、自分自身が「殺す側」に立つことができる人間と思えてしまったのかは、今から25年前に、私が狂ったようにのめり込んでいた、"人工知能技術"の1つ「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)」と深い関係があります。

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