産業技術総合研究所(産総研)は立山科学工業と共同で、高輝度で残光時間が長い蓄光材料を開発した。超高層ビルなどにおける避難誘導用LED照明システムなどの用途に向ける。
産業技術総合研究所(産総研)は2017年2月、高輝度で残光時間が長い蓄光材料を、立山科学工業と共同開発したと発表した。従来蓄光材料に比べて輝度は約3倍、残光時間は約2倍に向上する。避難誘導用LED照明システムなどの用途に向くという。
産総研の先進コーティング技術研究センター副研究センター長で、グリーンデバイス材料研究チームの研究チーム長を兼務する土屋哲男氏による研究チームは、精密な組成制御を可能とする化学溶液法を用いて、蓄光材料へ異種金属ドーピングを行った新規蓄光材料を開発するとともに、その合成プロセスも新たに考案した。
先進コーティング技術研究センターはこれまで、高輝度で残光時間が長く多色化に対応する蓄光材料の開発や、低温かつ高速コーティング技術の開発などを行ってきた。ところが、これまで開発してきた蛍光体材料や部材は、励起に用いる波長の違いによって発光特性が変わるといった課題があった。そこで今回、紫外光を含まないLED光でも、高輝度で長時間残光という特性を持つ蓄光材料、部材の開発を行った。
新たに開発した蓄光材料に、波長460nmのLED光を照射した。そうすると、材料内部の電子が励起されて発光し、励起が停止した後も発光し続けた。新規開発の材料と市販の蓄光材料を用いて、励起停止後の輝度と、明るさが10mcd/m2まで減衰する時間をそれぞれ測定し比較した。
測定結果によると、開発した材料は10分後でも602mcd/m2の輝度となり、市販蓄光材料に比べて約3倍の輝度を示した。また、市販の蓄光材料では、LED光による励起を停止した後、2時間で10mcd/m2となった。これに対して、新たに開発した蓄光材料は、4時間経過した後も10mcd/m2の輝度を維持できることが分かった。
蛍光体材料は、賦活材料や母材料の金属組成のわずかな違いによって特性が変わる性質がある。そこで今回は、母材料のバンドギャップや賦活材料の濃度、トラップ準位の濃度について、イオン半径が異なる異種金属をドーピングすることによって制御した。しかも新たに考案した合成プロセスを適用したことで、長い残光時間と高輝度を両立した蓄光材料を開発できたという。
さらに研究チームは、新開発の蓄光材料と金属有機化合物からなるハイブリッド溶液を用い、高輝度蓄光シートを作製した。この時、紫外光を使った成膜法である「光MOD法」により、蓄光材料をポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂基板上にコーティングした。光MOD法を用いると、金属有機化合物の光反応で生成した無機材料で蓄光材料を固定することができる。樹脂バインダーで蓄光材料を固定していた従来方式に比べ、耐熱性/耐候性に優れ蛍光特性が低下することもないとした。
開発した蓄光材料を、超高層ビルや公共施設などに設置される安全誘導標識に適用すると、災害時などでも長い時間にわたって避難誘導が可能になる。さらに、産総研が開発した赤色蓄光材料などと混合することにより、蓄光の多色化も可能になるという。
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