高エネルギー加速器研究機構と東京大学、産業技術総合研究所(産総研)らの研究ループは、クロコン酸結晶にフェムト秒パルス光を照射すると、強誘電分極が1ピコ秒以内に減少し、10ピコ秒後には回復する現象を見出した。
高エネルギー加速器研究機構と東京大学、産業技術総合研究所(産総研)らの研究ループは2017年3月、クロコン酸結晶にフェムト秒パルス光を照射すると、強誘電分極が1ピコ秒以内に減少し、10ピコ秒後には回復する現象を見出したと発表した。さらに、この現象が水素原子の移動とクロコン酸分子のπ電子系の変化による微視的な分極反転に基づいたものであることも明らかにした。
今回の研究は、高エネルギー加速器研究機構の物質構造科学研究所で研究機関講師を務める岩野薫氏や、東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本博教授(産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリー有機デバイス分光チームのラボチーム長を兼務)と宮本辰也助教、産業技術総合研究所(産総研)機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センターの下位幸弘研究チーム長らによる研究グループが行った。
有機強誘電体の一種であるクロコン酸結晶は、常誘電から強誘電への転移温度が400K以上と高いことや、強誘電分極の値が大きいことから、キャパシターなど有機デバイスの材料として注目されている。ところが、通常の強誘電体は、電場による電気分極の変化や反転にマイクロ秒程度の時間を必要とするため、これまでは高速に分極制御することが難しいと考えられていた。
研究グループは今回、フェムト秒単位で持続するパルス光を強誘電体に照射し、第二高調波発生(SHG)という手法を用いて分極の時間的変化を観測した。その結果、光子エネルギーが3.2eVのパルス光を照射した時に、強誘電分極が1ピコ秒以内という極めて短い時間で減少することが分かった。そして、約10ピコ秒後には回復することを確認したという。
研究グループは、分極変化の現象について理論的な解析も行った。密度汎関数理論に基づいたクラスター計算を行い、光が照射される前の電子状態(基底状態)と光が照射されたあとの電子状態(励起状態)を調べた。
この結果、光照射によって、まずクロコン酸分子中のπ電子が励起され、続いてそのπ電子励起が引き金となりプロトンが動き始める。これが次々と連鎖し、1光子あたり10分子以上にわたる領域でプロトンが直線的に連なって移動することが分かった。その方向は、元々の強誘電分極とは逆の方向となるため、全体として分極値が減少することになった。
研究グループは今回、光誘起による強誘電分極反転を実験と理論の両面から解明した。この成果を応用することで、有機強誘電体を用いた高速光スイッチ、光変調素子、光メモリなどの開発につながるとみている。
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