Haivisionの映像配信システムは、コストが高くつくプライベートネットワークではなく、パブリックネットワーク(公衆IP網)を使う。これも特長の1つだ。
ただし、一般的にパブリックネットワークで高解像度の映像を問題なくリアルタイムで伝送するというのは難しい。遅延やパケットロスが発生し、映像の品質が低下するケースも少なくない。そこで同社が開発したのが、独自のプロトコル「SRT(Secure Reliable Transport)」だ。
SRTは主に、パケットの再転送を行うパケットロスのリカバリー技術、「AES-128」「AES-256」に基づく暗号化技術、ネットワーク性能の検知機能で構成されている。この検知機能は、どのくらいの帯域幅を使用できるのか、パケットロスは発生しているのかなどをモニタリング、検知する。さらにSRTを使うとファイアウォールを簡単に通過することができる。このSRTによって、パブリックネットワークを使用しても、高い安全性と品質を維持しつつ映像を配信できるという。
なお、SRTはオプションの機能ではなく、Haivisionの全ての製品に、ソフトウェアスタックとして最初から搭載されている。
Haivisionがターゲットとするのは、エンタープライズ、放送、防衛の3市場だ。エンタープライズでは企業のテレビ会議システム、放送ではアメリカンフットボールの試合の生中継、防衛ではISR(情報、監視、偵察)など、いずれも高解像度の映像を低遅延で伝送することが求められる分野である。
Wicha氏は今後力を入れていく分野の例として、医療や工業を挙げた。例えば遠隔医療や、油田掘削など、高解像度の映像を使ってリアルタイムのモニタリングが必要な用途は多い。例えば、海底石油採掘向けのシステムなどを手掛けるOceaneeringは、海底で稼働する重機のモニタリングにHaivisionのシステムを採用している。リアルタイムで監視する必要があるので、高解像度の映像を、低遅延で送信する必要があるのだ。面白い用途としては、教会がある。礼拝や説教の映像を、遠方にいる信者にリアルタイムで配信するのである。
設立当初、Haivisionのターゲットは教育分野だった。サテライトで授業を行う際の映像伝送システムなどを手掛けてきたのである。「高解像度の映像を低遅延で伝送する」という、会社として目指すものは最初から変わっていない。“高解像度の映像を低遅延で伝送したい”というニーズが増え、「市場の方からわれわれに近づいているのだと感じる」とWicha氏は語る。
Haivisionは今後、日本市場にも力を入れる。2017年1月には東京都品川区にオフィスを構えた。同年3月22日には、PALTEK(パルテック)がHaivisionと販売代理店契約を締結したことを発表。ターゲット分野である防衛や医療、放送の市場に向けて、Haivisionの製品を販売する。
ちなみにHaivisionの「Hai」とは、ドイツ語でサメを指すという。Wicha氏は大のサメ好きだそうで、製品名の幾つかもサメにちなんだものがある。Wicha氏は「サメは視力が悪いとされているが、われわれが手掛ける技術は『見る(=Vision)』ことに関わるもの。視力が悪い『サメ(Hai)』と『見る』という言葉を組み合わせた社名を気に入っている」と話した。
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