東京大学の柴田直哉准教授らによる研究グループは、先端の走査型透過電子顕微鏡法と独自開発の多分割型検出器を用い、金原子1個の内部に分布する電場を直接観察することに成功した。
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の柴田直哉准教授、関岳人特任研究員、幾原雄一教授らの研究グループは2017年5月、金原子1個の内部に分布する電場を直接観察することに成功したと発表した。分解能が0.05nm以下の走査型透過電子顕微鏡(STEM)法と独自開発の多分割型検出器を用いた。
STEMは、試料上を走査する電子プローブの大きさによって、その分解能が決まる。現在は電子線を縮小するレンズ技術の進化などもあり、0.05nm以下の分解能が達成されている。この結果、原子そのものを可視化することは可能となったが、原子内部の構造を電子顕微鏡で直接観察することは極めて難しいといわれてきた。
研究グループは今回、金原子内部に分布する電場を可視化するため、分解能が0.05nm以下のSTEMと、独自に開発した多分割型検出器を用いて測定を行った。具体的には、原子内部にあるプラス電荷の原子核と、マイナス電荷の電子雲との間にある電場によって電子線が影響を受け、進行方向が変化する。今回は各位置における強度を分割型検出器で検出した。電子線強度の違いによって、原子内部における電場の分布状況を直接観察することができるという。
研究グループはこの測定方法を用いて、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶中の原子電場や、金原子内部の電場を観察した。この結果、プラスの原子核からマイナスの電子雲に向かって電場が湧き出している原子内部の様子を、直接観察することに成功した。
電子顕微鏡によって観察できるのはこれまで、原子レベルに限られていた。今回の研究成果により、原理的には原子内部における電荷の分布状態や原子同士の結合なども、直接観察することが可能とみられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.