従来型のペロブスカイト系材料を使った強誘電体不揮発性メモリの微細加工寸法が130nmにとどまっている理由は、粗く言ってしまうと、薄くすると強誘電性が失われてしまうからである。約200nmが、ぎりぎりの厚みだといわれている。
半導体製造技術では、微細加工の寸法をアスペクト比が制限する。アスペクト比とは、加工対象の厚み(縦方向、あるいは垂直方向の寸法)と、加工寸法(横方向、水平方向、あるいはシリコンウエハー表面と平行な方向の寸法)の比率である。強誘電体を含む構造の場合、アスペクト比が「3」以上に増加すると、製造は相当に困難になる。強誘電体の厚みを200nmとすると、電極の厚みを加えて垂直方向の寸法は300nm程度になる。アスペクト比を3と仮定すると、加工寸法の限界は100nm前後である。
ところが二酸化ハフニウム系強誘電体薄膜は、厚みがわずか7nm程度でも、強誘電性を有することが確認されている。研究室レベルの値とはいえ、ペロブスカイト系に比べ、はるかに薄くできることは確実である。すなわち、はるかに微細な加工技術を適用できる。
2012年6月に開催された国際学会VLSIシンポジウムでは、Fraunhofer Instituteを中心とする研究グループが、二酸化ハフニウム(シリコン添加)を使った強誘電体トラジスタを28nm技術で試作してみせた。二酸化ハフニウムの厚さは、わずか9nmである。試作したトランジスタは不揮発性メモリとして動作し、104サイクルの書き換え寿命を有していた。
書き換えサイクル寿命そのものは、2011年に日本の産業技術総合研究所(産総研)がペロブスカイト系強誘電体トランジスタで実現した108サイクルにははるかにおよばない。ただし、産総研の試作したトランジスタはゲート長が260nmと大きい。Fraunhofer Instituteらの試作したトランジスタはゲート長が28nmと小さく、原理的には、非常に高い密度で不揮発性メモリを実現できる。
また強誘電体トランジスタにとって極めて重要な、強誘電体とシリコン基板の間にあるゲート絶縁膜は、MOSFETで一般的な二酸化シリコン(SiO2)である。しかもその厚みは1nmと非常に薄い。産総研がペロブスカイト系で試作したトランジスタのゲート絶縁膜は二酸化ハフニウムとアルミナの化合物材料であり、一般的なMOSFETで使われている材料ではない。
さらに、ゲート電極にはペロブスカイト系では高価な白金(Pt)を使っていたのが、二酸化ハフニウム系では安価な多結晶シリコンと窒化チタン(TiN)(厚みは8nm)の積層膜で済むことが明らかになった。このことも、二酸化ハフニウム系強誘電体トランジスタの将来性が有望視される理由となっている。
(後編に続く)
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