インドの電気自動車(EV)メーカーMahindra & Mahindraのマヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームと技術提携を発表したルネサス エレクトロニクス。世界的には、まだ名を知られていないインドのメーカーと提携した狙いはどこにあるのか。
「フォーミュラE選手権」をご存じだろうか。FIA(国際自動車連盟)が主催する電気自動車のフォーミュラカーレースで、“F1の電気自動車バージョン”のようなものである。1シーズンにつき、8〜9カ月間をかけて世界約10都市でレースを行う。2014年にシーズン1が開催され、シーズン4(2017〜2018年)が2017年12月2〜3日に香港で開幕したばかりだ。
同じFIAが主催するF1に比べ一般的な知名度はまだ低いが、半導体メーカーの中には、既にフォーミュラEに深く関わっているメーカーもある。Qualcommは、シーズン1が始まる2013年の時点でフォーミュラEと技術提携を結んだと発表。同社のワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」が、フォーミュラEのセーフティカー(レースを先導するクルマ)に採用されている。ロームは、シーズン4に参戦するモナコの自動車メーカーVENTURI AutomobilesのフォーミュラEチームとテクノロジーパートナーシップを締結し、レースカーのインバーターに使われるSiCパワーデバイスを提供している。
そして今回、また新たな半導体メーカーが加わった。ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)である。同社は2017年11月30日に、インドの電気自動車(EV)メーカーMahindra & Mahindra(マヒンドラ&マヒンドラ、以下、Mahindra)のマヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのテクノロジーパートナーとなったことを発表した(関連記事:ルネサスとインド電気自動車メーカーが技術提携)。ルネサスは、シーズン4ではスポンサーのみを務めるが、シーズン5(2018〜2019年)では、レーシングカーへの技術の搭載を目指す。
Mahindraは、インドの自動車市場では大手メーカーだが、日本ではまだなじみがない。フォーミュラEとMahindra。どちらも決して知名度が高いとはいえない。なぜルネサスは、マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームと技術提携を結んだのか。ルネサス 執行役員兼オートモーティブソリューション事業本部 副事業本部長の吉岡真一氏がその理由を語った。
ルネサスの狙いは大きく2つある。1つ目は、インド市場を含めグローバル市場でのブランドイメージの向上だ。2つ目が、車載技術の開発の加速である。
ルネサスの車載半導体の売上高を顧客国籍別にみると、売上高全体の6割が日本向け、2割弱が欧州向け、1割弱が米国向け、残りがインドや中国などである。インドの割合は全体の5%未満だ。吉岡氏は「現時点でも日本では一定のシェアは獲得している。だが、今後は車載市場における地域別のシェアは変わっていくとみている。既に中国も相当数の自動車を生産するようになっているし、中国の次にくるのは間違いなくインドだと考えている」と述べる。
中国とインドに共通しているのは、政府が主導してクルマの電動化を進めていることだ。インド政府は「2030年までには、インドで販売される自動車をEVのみとする」という目標を掲げている。大気汚染の低減など環境面での背景もあるが、EVが、ガソリン車に比べて開発しやすいという理由もある。「ガソリン車は日本などがかなり先行しているので、中国やインドといった自動車開発の新興国が追い付くことは難しい。だが、製造しやすいEVであれば、競争にそれほど後れを取らずに済む」(吉岡氏)
統計情報を提供するStatistaによれば、2016年におけるインド自動車市場のシェアは、トップがMaruti Suzuki(マルチ・スズキ)*)で約47%、2位が韓国Hyundai Motor(現代自動車)で約17%、3位がMahindraで約7.5%だ。つまり、ローカルメーカーではMahindraがトップに立っていることになる。しかも、EVの出荷台数で見れば、Mahindraはインドではトップだ。Mahindraと提携し、マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのスポンサーとなれば、EVの急速な成長が見込まれるインド市場のみならず、世界各国に点在するレースの開催地においても、ルネサスの認知度の向上を狙うことができる。
*)スズキのインドにおける製造販売子会社。
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