今回の提携は、Mahindraがルネサスにアプローチして実現した。この背景には、自動車業界における産業構造の変化がある。
吉岡氏によれば、自動車業界では、産業の構造にパラダイムシフトが起きているという。「ティア1、ティア2サプライヤーがあって、その上に自動車メーカーが君臨する」という従来のがっちりとしたピラミッド構造が少しずつ変化し、水平分業へと移行している部分があるのだ。中国やインドなど自動車開発の新興国ではとりわけその傾向がみられ、ティア1、ティア2サプライヤーに全てを任せるのではなく、自動車メーカーが直接半導体メーカーにアプローチするケースも多いという。
マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのCEO兼Team Principalを務めるDilbagh Gill氏によると、技術提携を行うパートナーとしてルネサス以外の半導体メーカーとも交渉していたという。だが「チップの性能や、ハードウェアとソフトウェアを包括的に提供できる点などにおいてルネサスが優位だったため、ルネサスを選んだ」(Gill氏)
Mahindraはもともとルネサスの顧客だったこともあり、今回の提携は最初に具体的な話が出てからわずか4カ月ほどで実現した。
シーズン4では、マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのスポンサーのみを務めるルネサスだが、「シーズン5のレーシングカーには、ルネサスの技術を搭載していけるよう話を進めていく」と吉岡氏は述べる。具体的なことは「これから決めていく」(吉岡氏)が、候補の1つとして挙がっているのがバッテリー監視システムだ。バッテリーマネジメントやバッテリー監視については、ルネサスが買収したIntersilが特に強みを持っている分野である。「Intersilのバッテリー監視技術にルネサスのマイコンを組み合わせることで、高い精度が要求されるバッテリー監視システムを実現できると考えている」(吉岡氏)
それ以外には、インバーターやDC-DCコンバーターなどが挙げられる。「マイコン、パワー、アナログの3点セットと、それらの上で動作する制御ソフトが必要になってくる。マイコンから提供するのか、それともパワーから提供するのかといった具体的なことを、今後詰めていく。ただ、レーシングカーのために新しいデバイスを開発するというよりは、ルネサスの開発ロードマップに沿って開発したものあるいは開発中のものを、順次提供する形になるとみている」(吉岡氏)
マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのGill氏は、「フォーミュラEのレーシングカーは、シーズン5から、がらりと変わる。シーズン4まではドライバー1人がレースの途中でマシンを乗り換える2台体制だったが、シーズン5では乗り換えず、1台のみを使用する。バッテリーマネジメントやモーター効率からマシンの重さまで、あらゆる点で改善が必要になる。ルネサスと協力することで、こうした改善を実現できると確信している」と語った。
自動車市場の急速な発展が見込まれるインドの自動車メーカーであること。レーシングカーという実車で、開発したデバイスのPoCを進められること。レーシングカーに適用された技術はいずれ量産車にも搭載されること――。ルネサスにとってMahindraは、あらゆる意味で理にかなった提携の相手だった。
シーズン5で、マヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームはどんなマシンを披露するのか。ルネサスの技術がどう貢献しているのか。1年後、それが明らかになるだろう。
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