2017年12月13〜15日に開催された「SEMICON Japan 2017」の基調講演「SEMIマーケットフォーラム」で、IHS Markit Technologyの南川明氏は、「電気自動車(EV)市場は期待ほど急速には伸びない」と語り、その理由を説明した。
「電気自動車(EV)市場は、期待されているほど急激には伸びないだろう」――。「SEMICON Japan 2017」(2017年12月13〜15日、東京ビッグサイト)で12月13日に行われた基調講演「SEMIマーケットフォーラム」に登壇したIHS Markit Technology調査部 調査ディレクターの南川明氏は、開口一番、このように語った。
南川氏は、「中国半導体産業の光と影」というテーマの下、「EVへのシフトが半導体に与える影響」というタイトルで講演を行った。
同氏は「EV市場が成長するのは確かだ」と述べる。フランスとイギリスは2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。中国政府は、2019年に国内で販売する自動車台数の10%以上を、EV/プラグインハイブリッドカー(PHEV)/燃料電池自動車(FCEV)とすることを自動車メーカーに義務付ける法律を発表。自動車メーカーでは、Volvo Carsが内燃機関のみを搭載した自動車を段階的に廃止する方針を発表している。それでも南川氏は、「われわれとしては、EV市場は期待ほど伸びないと考えている」との見解を示す。
主な理由は2つある。1つ目は、EVよりも自動運転の方が半導体消費が大きいからだ。自動車に搭載される半導体の平均的な金額は、ガソリン車が220米ドル、EVが400米ドル、PHEVが480米ドルくらいである。ところが、これがレベル3(条件付き自動運転)の自動運転車になると、800米ドルに跳ね上がる。自動運転を実現するためのADAS(先進運転支援システム)に、多数のセンサーやプロセッサが必要になるからだ。レベル3の自動運転車としては、Audi(アウディ)の「A8」が2018年に日本国内に投入される予定である。
南川氏は「自動運転車の市場には、大きな半導体の需要が待っている。その意味で、半導体メーカーにとっては、自動運転車の重要度がEVよりも高くなっているのではないか」と述べる。さらに、レベル3以上の自動運転車では、レベルが上がるにつれて、ADASに使われる半導体の金額も増える。南川氏によれば、完全な自動運転車であるレベル5では、その金額は9400米ドルに上るともみられているという。「自動運転のレベルが上がるということは、半導体需要に直結する」(南川氏)
「EV市場は急激に伸びない」とする2つ目の理由は、電力の問題だ。南川氏は「例えば30kWhのバッテリーを搭載しているとすると、一般家庭で充電するには約10時間かかる。2030年に、日本で販売される自動車の半分がEVになると仮定すると、充電には270万kWの電力が必要になる。これは、原子力発電所3基分のエネルギーに相当する。急速充電するとなると、さらに約10倍のエネルギーが必要になる。あと十数年でこれだけの電力インフラを整えるのは不可能に等しい」と説明する。
南川氏は、「2025年には、世界の電力の需要と供給のバランスが危うくなるとみられている。さらに、バッテリーの材料の供給が追い付かなくなるという懸念もある」と続ける。
一方で南川氏は、「中国のEV市場の伸びについては、別だ」と強調した。前述した通り、中国は政策としてEVに舵を切った。ガソリン車に比べて部品点数が少ないEVは比較的作りやすく、「中国の自動車産業にとっては近道だ」(南川氏)
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