産業技術総合研究所(産総研)の研究グループらは、耐圧1200V級のショットキーバリアダイオード内蔵SiC(炭化ケイ素)トランジスターを開発し、量産試作品レベルでその性能や信頼性を実証した。【訂正】
産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターSiCパワーデバイスチームの原田信介研究チーム長らによる研究グループは2017年12月、耐圧1200V級のショットキーバリアダイオード内蔵SiC(炭化ケイ素)トランジスターを開発し、量産試作品レベルでその性能や信頼性を実証したと発表した。この成果は富士電機との共同研究によるもので、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)における電力変換システムのオールSiCモジュール化が可能となる。
SiCデバイスのみを用いたオールSiCモジュールは、シリコンデバイスを用いた場合に比べて、電力変換効率を大幅に改善できる。これに加えて、コスト低減や信頼性を向上させるためには、SBD(ショットキーバリアダイオード)内蔵型MOSFETを用いることが有効だといわれてきた。しかし、これまでは耐圧が3300V級以上のMOSFETでしか、高い信頼性は確認されていなかったという。
そこで研究グループは、トレンチ型MOSFETにトレンチSBDを内蔵する独自構造のデバイス「SWITCH-MOS(SBD-Wall Integrated Trench MOS)」を開発し、耐圧が1200V級のMOSFETでも、高い信頼性が得られることを実証した。
【訂正:2017年12月26日19時10分 上記図版の配置に誤りがあり、「一般的な構造」と「今回開発した構造」が左右反対に表示されていました。訂正してお詫び致します。】
一般的なSBD内蔵MOSFETでは、SiC-MOSFETの内部にあるPiNダイオードが、SiC-SBDの代替として用いられる。しかし、SiCのPiNダイオードは、順方向に電圧を印加すると電流が低下する「順方向劣化」という現象が生じるため、信頼性に課題があったという。新開発のSBD内蔵MOSFETは、内部のPiNダイオードに印加する電圧(VPiN)が、ある値を超えないように抑えることで、PiNダイオードを不活性化するように工夫した。
研究グループは、VPiNがSBD部の電圧分担(VSBD)とP型領域周囲の電流広がり領域の電圧分担(V広がり)の和に等しいことに着目。耐圧保持領域となるドリフト層の電圧分担(Vドリフト)が小さい、1200V級のデバイスでもVPiNを抑えられるように、V広がりの低減を目指した。
開発したSWITCH-MOSは、セルピッチが狭くオン抵抗も小さいトレンチ型MOSFET「IE-UMOSFET」を基本構造としている。トレンチゲートの電界緩和層の埋め込みp+層上にトレンチを形成し、その側壁にSBD-wallを内蔵した構造である。この結果、SBDを内蔵しても5μmのセルピッチが保たれており、p型領域幅を最小限に抑えてV広がりを低減することができた。
耐圧が1200V級のSWITCH-MOSは、セルピッチが16μmと広くなれば、約300A/cm2の電流密度でPiNダイオードが動作する。このため、SBDが内蔵されていない従来型UMOSFETとほぼ同じ電流−電圧特性を示すことになる。今回のようにセルピッチが5μmと狭くなればV広がりは抑制され、電流密度が2800A/cm2となっても、PiNダイオードの動作を不活性にすることができるという。
研究グループは、試作したデバイスを用いて順方向劣化試験も行った。試験後のフォトルミネッセンス像によると、従来型UMOSFETではPiNダイオードが動作して順方向劣化が生じ、積層欠陥が拡がっていることが分かる。これに対して、セルピッチが5μmのSWITCH-MOSは、積層欠陥の拡がりはなく、順方向劣化をしていないことが分かった。
研究グループは今後、事業化に向けた取り組みを強化する。デバイス構造多層化や製造プロセスの高度化を進めつつ、パッケージングなどの技術開発にも取り組む計画だ。
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