産業技術総合研究所(産総研)の上原雅人主任研究員らは村田製作所と共同で、RFスパッタ法を用いて、単結晶と同等の圧電性能を示すGaN(窒化ガリウム)薄膜を作製する方法を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)製造技術研究部門センシング材料研究グループの上原雅人主任研究員らは2017年8月、RFスパッタ法を用いて、単結晶と同等の圧電性能を示すGaN(窒化ガリウム)薄膜を作製する方法を、村田製作所と共同で開発したと発表した。さらに、Sc(スカンジウム)を添加すると、圧電性能は飛躍的に向上することが分かった。
GaNやAlN(窒化アルミニウム)といった窒化物の圧電体は、酸化物に比べて機械的性質に優れ、センサー感度やエネルギー変換率が高いという。このため、通信用高周波フィルターやセンサー、エナジーハーベスターなどへの応用が期待されている。
特に、GaNを用いた圧電デバイスは通信機器や車載システム用の高周波デバイスとして注目されている。ところが、これまではMOCVD(有機金属化学気相成長)法で作製していたため、製造コストが高く高温プロセスが必要になるなど、大量生産に向けては作製方法が課題となっていた。
研究グループは今回、新たな製造技術を開発した。まず、シリコン基板上にHf(ハフニウム)やMo(モリブデン)の配向層をあらかじめ成長させる。その上に、比較的低温で成膜できるRFスパッタ法を用いて、GaNの配向薄膜を成長させる方法である。
X線ロッキングカーブ法で、作製した配向薄膜の結晶品質を評価した。この結果、シリコン基板上に直接成長させる薄膜に比べて、HfやMoの配向層にGaN薄膜を成長させる今回のプロセスが、配向性に優れていることが分かった。このGaN配向薄膜の圧電定数d33は約3.5pC/Nで、MOCVD法で作製した単結晶GaNの値とほぼ同等になったという。
さらに研究グループは、GaNにScを添加した圧電薄膜を作製し、その評価を行った。この結果、圧電定数d33は約14pC/Nに向上した。Scを添加していないGaNの4倍である。従来のMOCVD法では、異種元素を添加すると配向薄膜の品質が劣化していたが、RFスパッタ法を用いることで良質な配向薄膜の作製が可能になったという。
今回開発したGaN圧電薄膜を用いて、BAW(Bulk Acoustic Wave)型高周波フィルターを試作し、共振特性を調べた。この結果、Sc無添加薄膜もScを添加した薄膜も良好な共振特性を示した。特に、Scを添加した薄膜の電気機械結合係数k2は、約6%となった。この数値は無添加単結晶に比べて3倍になるという。なお、今回作製したSc添加GaNの圧電定数d33と電気機械結合係数k2は、「GaN系としては現時点で世界最高値」と主張する。
今回開発したRFスパッタ法により、GaN圧電薄膜へ異種元素を添加することが可能となった。今後は、レアアースのScに替わる安価な元素の探索や、圧電性能をさらに向上させるための構造制御技術などを開発していく予定である。
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