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あなたは“上司”というだけで「パワハラ製造装置」になり得る世界を「数字」で回してみよう(46) 働き方改革(5)(4/12 ページ)

» 2018年01月22日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

テレワークの利用率を国交省のデータで見てみる

 さて、今回、実際のテレワークの利用率を計算しようとしたのですが、国土交通省さんが、かなりかっちりした調査報告書を開示されておりますので、今回はこれを参考にして、論じたいと思います。

(1)メール、スケジュール管理では82%が利用しているが、テレビ会議は11%程度(p.9)

 テレワークの本命は、移動時間の削減によるパフォーマンスの向上ですので、本命のテレビ会議が、このあり様ではお話になりません。

(2)労働者にとって「テレワーク」が、必ずしも「良い」と感じるものではないらしい(p.22)

 業務効率が上がった(50%)、自由時間が増えた(44%)という人もいる一方で、仕事の時間が増えた(47%)、効率が下った(29%)という人もいるようです。これは「相性の問題」と思われます。

(3)部長は「テレワーク」を使うが、部下は「テレワーク」を使わない(p.16)

 これがなかなか興味深い結果です。部長クラスが30%なのに対して、一般社員クラスは13%、派遣・パートに至っては7%です。この非対称性の理由は何だろう? と考えていたのですが、要するに、部長クラスは、もっぱら部長以上のランクの人と「テレワーク」をしていると考えれば、筋が通ります。

 つまり「テレワーク」は、上司が部下をコントロールする手段としては使われておらず、社内のガバナンスを発揮する道具としては役に立っていない、という仮説が成立しそうです。確かに「電話会議で、部長に叱責(しっせき)される」という場面は、あまりイメージできません。

(3)企業が「テレワーク」のシステム/制度を導入していない(p.14)

 仕事の内容から運輸業の"7%"とか、あるいは、「お役所仕事」というイメージ(偏見)から公務員の"10%"という導入率の低さは理解できるのですが、情報通信業の"34%"は、失笑ものの低さです。「お前ら、『テレワークのシステム』を売る側の人間だろう!」と、思わず突っ込みたくなりました。

(4)そもそも「テレワーク」を知らない(p.26)

 この報告書で、私は、回答者の46.7%が「テレワークという働き方を知らかった」という、驚がくの結果を知ることになりました。なるほど、政府が、働き方改革の項目に入れるハズだ、と、しみじみと実感してしまいました。

(5)「テレワーク」の利用者が絶望的に少ない

 この資料のp.15に、職種別のテレワークの割合が記載されていますが、これは、職種別の労働者数の比率が考慮されていません。そこで、以前に私が作った資料(「仮説:パソコンが私たちの仕事を奪った」)を使って、ざっくりとしたテレワークの利用者数を算出してみました。

 「100人中、13人」 ―― 駄目です。絶望的に少ないです。

 私が、インターネットのインフラ(通信機器、ネットワーク)の研究に従事してきたのは、このような「テレワーク」を実現できる世界を作るためでした(「YouTube」や、「Twitter」やネトゲ(ネットゲーム)のためではない)。そのような世界は既に完成しているのに「13人しか使っていない」というのは、正直、泣けます

 しかし、江端仮説でも述べたように、私たち日本人は、年休すら消化できないチキン……もとい、生真面目な国民性を有しています。

 テレワークが、労働者の負荷を軽減する(生産性の向上なんぞどうでもよい)ことになれば良いのですが ―― 下手すると、「自宅で過労死」が、老人の孤独死の死者数を超えるような状況を引き起こすかもしれない ―― という恐れがない訳でもありません。

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