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あなたは“上司”というだけで「パワハラ製造装置」になり得る世界を「数字」で回してみよう(46) 働き方改革(5)(6/12 ページ)

» 2018年01月22日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「業務命令」という厄介な要素

 この業務命令こそが、組織としてのSoSを成立させる肝(キモ)で、そして、非常に効率的なメソッドなのです。

 業務命令とは、文字通り「命令」です。原則として、アッパーシステム(上司)は、「命令」をするだけで良く、その実現手段までを教える義務はありません。

 一方、その命令の実現手段はサブシステム(部下)の自由な裁量に委ねられていますが、サブシステムは、アッパーシステムの要求する品質と納期を厳守しなければなりません。

 アッパーシステム(上司)は、サブシステム(部下)の進み具合を管理し、必要に応じて追加オーダー(予定外の仕事)を発注することもできますし、必要なら、サブシステムの能力を超えた命令をすることも許されています。万一、サブシステムが「壊れて」しまったら、SoSから“切り離す”ことさえ許されています。

 ここで重要なのは、アッパーシステム(上司)は、アッパーシステムの目的を達成するための業務命令なら、原則として何でも「あり」ということです。

 ここまでお話すればご理解いただけると思いますが、この問題の根幹は、アッパーシステム(上司)が、サブシステム(部下)の能力を超える命令を発動できる権利能力にあります。この業務命令の権限が、あまりに強力過ぎることから、アッパーシステム(上司)も、サブシステム(部下)も、大きな錯覚をしてしまうのです。

 アッパーシステム(上司)は、「サブシステム(部下)の能力を超える命令を無制限に発動できる」とか「業務以外についても権利能力を行使できる」とかいうような、誤った錯覚をしてしまう ―― これがハラスメントの実体です。

 では、ハラスメントは、上司と部下の両方による共同幻想物にすぎないかというと、そんな甘いものでもありません。

 実際に、アッパーシステム(上司)は、業務と無関係なそれらの「モノ」で、実際にサブシステム(部下)の処分をすることができます(もちろん、これは適正な業務命令ではなく、権利の乱用です)。

 そして、その権力の乱用に対抗する手段を知らない(教えてもらっていない)サブシステム(部下)が、ハラスメントの害悪を拡大させることになります。

 加えて、ここに奇妙な思い込みが加わります。

 それは、「アッパーシステム(上司)となれる能力のある人間であれば、権力の適正な行使ができるはず ―― 故に、ハラスメントなどが起こる訳がない」という奇妙な幻想です。

 この奇妙な幻想が発生する理由は明快です。

 日本の組織においては、多くの場合、どんなアッパーシステム(上司)も、最初はサブシステム(部下)として組み込まれます(いきなり上司になるのはレアケース)。

 ですので、「そのような経験値を持っている(はず)のアッパーシステム(上司)は、サブシステム(部下)のマインドを、理解できるハズである」という幻想があるのです。

 ですが、そもそも、この考え方が根本的に間違っているのです。

 アッパーシステム(上司)に昇格できるポテンシャルを有している人間は、基本的にサブシステム(部下)の中でも優秀な人です。それは逆に言えば、「サブシステム(の無能さ、不器用さ)を理解できない、(優秀、有能な)サブシステム」だったのです。

 そのような、優秀・有能なサブシステムは、当初からアッパーシステムの資質を有しているのですから、サブシステムでありながら、凡庸・無能なサブシステムを理解できません。それどころか、下手すると(同僚などに)憎悪の感情を持つことさえもあります。

「できない」ことを「理解できない」

 少し、私の話をしましょう。

 私は、仕事全般については、凡庸・無能です(だから、万年主任です)が、発明のネタ出しについては、正直「苦労した記憶がありません」。

 これは私が、新しいアイデア*)を思い付くのが得意で、好きであるからです。そして、私は、発明のネタを思い付くことができないという人間を、理解できませんでした

*)会社の利益に直結する発明ネタを生み出すことは、なかなかできませんでしたが。

 ですので、私は、特許明細書のノルマを守れない人間というのを、長らくの間、理解できませんでした。そのような人間を、怠惰で、悪意で私を困らせているとさえ思ったことがありました。

 私のこのような考えが間違っていることが分かったのは、就労年月を重ねる月日の中で、発明のネタ出しで苦しみ続け、ノルマを守れない同僚が、あまりにも多過ぎることに気がついたからです。

 ――たまたま、私は「それ」が得意だっただけ

と気付くのに、実に20年もかかりました。その間、多くの同僚や部下の心を、心ない態度や言動で破壊してきたことは、間違いありません。

 ですから、「特許明細書の作成」という業務に関しては、客観的に「パワハラの加害者」であったと認められます。

 そして、私は、これまで、「出世しない主任」として、多くの私より若い上司に仕え、支えてきましたが、若い上司の多くはやはり私と同じ誤ちを犯していました。

 ―― 彼らは、部下の「できない」を、どうしても理解「できない」 ――。

 これが、このシリーズで私が一貫して主張としている「上司は上司であるというだけで、パワハラ製造装置になる」という現実です。

 以上の話をまとめますと ――

  • あらゆる組織は、階層的(ヒエラルヒー)に構成されており、これは、組織を運用する上で、最も効率的なシステムである
  • しかし、同時に、組織の構成員を最も不幸せにする要素を、運命的に有するシステムでもある

ということです。

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