後輩:「久々に、"うならせて"いただきましたよ。ここんところ、まれにない傑作です」
江端:「ふうん、そんなに良かった?」
後輩:「まず『システム論から見たハラスメントの発生メカニズム』―― これは本当に良かった。どうやって、こんな着想に至れたんですか?」
江端:「あえて言えば『腹を立てていたから』かな?」
後輩:「というと?」
江端:「私も文章を執筆する前に、かなりの時間をかけて下調べをするんだけど、『職場のハラスメント』に関する記事が、どれもこれも、『金太郎アメ』のようで、ウンザリしてしまったから」
後輩:「具体的には?」
江端:「(1)『あの会社ではこんなひどいことが看過されてきた』→(2)『今回こんなに悲惨な事件が起きた』→(3)『その責任は誰にあるんだ』→(4)『これは日本全体の問題である』の金太郎アメのループ」
後輩:「なるほど」
江端:「今の私なら、AI技術なんぞ使わなくても、『職場のハラスメント』記事を自動作成するプログラムを作れると思う」
後輩:「まあ、私たちエンジニアは『批判して立ち去るモラリスト』は許されませんからね。『システムを正常に動かしてナンボ』の世界で生きているのですから」
江端:「ハラスメントが定常的に発生しているなら、『職場というシステムにハラスメントが内挿されている』と考えるのは、自然だよね」
後輩:「江端さんのシステム論的アプローチでは、『組織運営において業務命令は必要不可欠』でありながら『その業務命令こそがハラスメントの発生要因である』ということでしたよね」
江端:「そう。その通り。で、そのような職場のハラスメントの救済手段は、ある程度、法律等で準備されているんだけど、その(法律)の使い方をみんな知らなくて、知っていてもなかなか使えなくて、『白馬の王子さまを待っている』というわけだよ。ええい! 腹が立つ!!」
後輩:「江端さん。酔っ払っています?」
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後輩:「それにしても、江端さんが『特許業務のハラスメント製造装置である』なんてこと、今さら告白されてもなあ……。それ、ウチ(弊社)の研究部門では『定説』ですよ」
江端:「……え?」
後輩:「江端さんは、かつて、特許の明細書執筆をフォローする『特許自動フォローシステム』を作って、毎日、所員にフォローメールを自動送信し続けていましたよね」
江端:「まあ、その、何だ……、政府のいう『AIを使った働き方改革』の走り?」
後輩:「江端さんのシステム対抗するために『江端メール自動削除エージェント』も作られていました」
江端:「それは、私も聞いたことがある」
後輩:「それに、特許ノルマ達成後『よくやった!』の一言も来ない、という不満もありました」
江端:「執筆完了後に『ご苦労さまでした』メールを自動送付するような機能を追加をしたはずだけど」
後輩:「『100通のフォローメールを送付したなら、100通のメールで慰労するのが、正しい対応じゃないか』という不満が噴出していましたよ」
江端:「え、そうなの?」
後輩:「そもそも、自分の"特許ハラスメント"を自覚するのに、なんで"20年"もかかるんですか。普通、"2年"で気付きますよ」
江端:「しかし、この20年間、誰からも抗議を受けなかったし……」
後輩:「そりゃ、江端さんの特許管理は、どう見たって、適性な業務範囲内の行為ですから、誰も公に抗議できなかったんですよ」
江端:「つまり、それは『ハラスメントと認定できないハラスメント』……と?」
後輩:「それ以上に、江端さんの特許ハラスメントは、『業務命令』から起因しているのではなく、『江端さん個人の思い込み』から発生しているものでしょう?」
江端:「『思い込み』かどうかはさておき、ウチの会社の社是『"技術"で社会に貢献する』は気に入っているな。"宗教"や"イデオロギー"や"愛"なんぞで、世界が救えるかぁぁぁぁ! と思っているから」
後輩:「そろそろ、自覚して欲しんですけど、職務上の権限が有ろうが無かろうが、江端さんは『江端さんであるというだけで、ハラスメント』なのです」
江端:「人を、"爆弾"や"わいせつ物"のように言うのは、やめてくれないかな」
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後輩:「でも、江端さんって、江端さんのシミュレーションの、性格"A"や性格"F"に位置する"極左"や"極右"みたいな、ゆがんだ性格の持ち主じゃないですか。加えて「度量」の片りんすらありませんし」
江端:「ちょっと、扱いが酷すぎやしないか?」
後輩:「もしかして、江端さんは『自己批判』のためにこのシミュレーションを実施したのですか?」
江端:「そんな訳あるか!」
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後輩:「それにしても、江端さんが寄稿している、えっと、"EE Times Japan"でしたか? こちらも、すごい編集部ですよね」
江端:「?」
後輩:「江端さんみたいな、最悪の人格で、偏狭な性格で、アホみたいに長文のコラムを執筆する、度量ゼロの、週末ライターのパフォーマンスを最大限発揮させるというのは ―― この担当者、タダ者ではない ――と、私でも思います」
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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