慶應義塾大学の研究グループらは、絶縁体を用いてスピントロニクス素子を駆動させる新たな原理を発見した。駆動効率はトポロジカル絶縁体に匹敵するという。
慶應義塾大学理工学部の安紅雨訪問研究員と安藤和也准教授らの研究グループは2018年2月、東北大学材料科学高等研究所の大野武雄准教授らと共同で、絶縁体を用いてスピントロニクス素子を駆動させる新たな原理を発見したと発表した。駆動効率はトポロジカル絶縁体に匹敵するという。
スピントロニクス素子はこれまで、磁性体に接合された金属に電流を流すと生じるスピン軌道トルクを用いて、磁化を制御してきた。ところが、金属に電流を流すこの方法だとエネルギー損失が発生する。これを回避するため最近は、表面のみが金属の特性を示すトポロジカル絶縁体を利用する方法が注目されていた。
研究グループは今回、金属を酸化させた金属酸化物絶縁体を用いて、スピントロニクス素子を駆動させることができることを明らかにした。具体的には、白金を酸化させ絶縁体となった白金酸化物上に、磁性体のコバルト・テルビウム合金を成膜。この試料を用いて検証したところ、電流によって磁化の向きを制御できることが分かった。
研究グループは、酸化度が異なる白金酸化物を用意し、生成されるスピン軌道トルクを測定した。この結果、電流が流れないほど酸化した白金でも、磁性体との界面に流れた電流によって、巨大なスピン軌道トルクが生成されることを明らかにした。さらに、電場によって外部から白金酸化物内部の酸素を動かし、スピン軌道トルクの大きさを制御することにも成功した。
研究グループによれば、今回の金属酸化物絶縁体を用いたスピントロニクス素子は、トポロジカル絶縁体の駆動効率に匹敵するという。これにより、極めて高速で消費電力の少ないスピントロニクス素子の開発が加速されるとみている。
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