情報通信研究機構(NICT)は2018年5月16日、5G(第5世代移動通信)を活用する交通インフラの構築に向け、センサーを内蔵した電子カーブミラーを用いて道路環境を把握する技術を発表した。
情報通信研究機構(NICT)は2018年5月16日、5G(第5世代移動通信)を活用する交通インフラの構築に向け、センサーを内蔵した電子カーブミラーを用いて道路環境を把握する技術を発表した。
この電子カーブミラーには、ステレオカメラとLRF(Laser Range Finder)が搭載されている。LRFは、レーザーを物体に照射して、その散乱光を測定することで物体までの距離や物体の性質を分析できる機器である。
電子カーブミラーを用いて道路環境を把握する仕組みは、以下の通りだ。
1)電子カーブミラーで、自動車や歩行者、障害物などの種類、位置、移動速度などをリアルタイムに認識し、カメラとLRFの画像から特徴を抽出する
2)これらのデータを、エッジサーバ(クラウドよりも手前にある、電子カーブミラーに近いサーバ)に無線で送信する
3)エッジサーバでこれらのセンサー情報が統合され、同時刻における道路環境のスナップショットを生成する
2)で、データをエッジサーバに送信する際に、5Gを利用する想定だ。1ミリ秒以下といわれる5Gの超低遅延がここで生きてくる。NICT ワイヤレス総合研究センター ワイヤレスシステム研究室で研究マネージャーを務める石津健太郎氏によれば、現行のLTEを使った場合、システム全体で数百ミリ秒の遅延が発生してしまうという。
電子カーブミラーのセンサーで取得した画像は、物や人といった特徴的な箇所を切り出したり、圧縮したりしてデータ量を削減している。
NICTは、横須賀リサーチパーク(YRP、神奈川県横須賀市)にテストベットを構築し、この電子カーブミラーを用いた交通インフラの実証実験を行っている。ただし、5Gの電波を実際に使うことはまだできないので、IEEE 802.11acに準拠した無線システムを使い、5G通信を模擬する形で、テスト環境を構築しているという。NICTによれば、早ければ2018年度内にもテストベット内で、実際に5Gの電波を使用して実証実験ができるようになる可能性もあるとしている。
今回のテスト環境では、道路状況を把握できるスナップショットを生成するところまでしか行っていないが、NICTとしては、これらのスナップショットがダイナミックマップ*)に反映され、自動車やドローン、建設機械、車いすといった自律型モビリティに送信されるという活用法を想定しているという。
*)ダイナミックマップ:静的な地図情報と、渋滞や事故、工事、天候といった動的な情報を取得して組み合わせるデジタルマップ。
石津氏は、「自律型モビリティが、より安全に効率的に動くためにはダイナミックマップが不可欠だ。ただし、ダイナミックマップのためには多数のセンサーから情報を集める必要があり、そこに5Gの力を使える」と語る。
今回紹介した電子カーブミラーを使った交通インフラの実用化については、「NICTが実際にサービスを開発、提供するわけではない上に、制度化なども関わってくるので明確には言いにくいが、5Gの商用化が2020年と見込まれているので、それ以降だと考えている。こうした電子カーブミラーは、あらゆる場所に設置しなくても、例えば主要な交差点や、一部の高速道路に設置することから始めてもよいのではないか」と述べた。
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