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非隣接スピン量子ビット間の量子もつれ生成に成功量子コンピュータの大規模化に道

理化学研究所(理研)とルール大学ボーフム校の国際共同研究グループは、半導体量子コンピュータの大規模化を可能とする、隣り合わないスピン量子ビット間の量子もつれ生成に成功した。

» 2018年06月05日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

 理化学研究所(理研)とルール大学ボーフム校の国際共同研究グループは2018年5月、隣り合わないスピン量子ビット間の量子もつれ生成に成功したと発表した。半導体量子コンピュータの大規模化に向けて、その道筋を示した。

 今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの中島峻研究員と樽茶清悟グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)および、ルール大学ボーフム校のアンドレアス ウィック教授らの国際共同研究グループによるものである。

量子もつれ状態の生成効率向上に雑音を利用

 国際共同研究グループは、ウィック教授らが作製したGaAs(ガリウムヒ素)/AlGaAsヘテロ接合基板上に、電子線リソグラフィー技術を用いて三重量子ドット構造を形成。そして、独自開発の微小な磁石による漏れ磁場を利用し、3つの電子スピンを個別の量子ビットとして制御できることを確認した。

 また、非隣接量子もつれ状態を効率的に生成する手法も新たに開発した。1つの量子ドット中で局所的に形成した量子もつれ状態を、隣接する量子ビットに順次、転送する制御方法である。具体的には、単一の量子ドット中に2つの電子スピンを閉じ込める。これによって、量子もつれ状態の1つであるスピン一重項状態(電子スピンが反平行でスピンの入れ替えに対して反対称)を実現。この2電子のうちの1つを、隣接する量子ドットに転送して、隣接する2量子ビットの量子もつれ状態を生成した。

左は3量子ビットを擁する半導体量子ドット試料、右は量子もつれ生成メカニズム 出典:理研他

 特に、用意したスピン一重項状態と、別のスピン三重項状態が周期的に入れ替わるように振動する様子を観測することで、隣接2量子ビットの量子もつれ状態が正しく生成されていることを確認した。さらに、パルス電圧を操作し量子ドットのエネルギー状態をゆっくりと変化させた。そうしたところ、隣接量子ビット間に形成された量子もつれ状態が、隣接しない量子ビットの間で量子もつれ状態に変換されることが分かった。しかも、スピン一重項と三重項間のコヒーレント振動を観測し、量子もつれ状態の品質が保たれていることを確認した。

下が隣接、上が非隣接量子ビット間の量子もつれ状態コヒーレント振動 出典:理研他

 研究グループがデータ解析を詳細に行ったところ、非隣接量子もつれ状態の生成効率は当初予想した値を大きく上回ることが分かった。理研はこれを解明するため、数値シミュレーションを行い実験結果と比較した。この結果、環境の電気的雑音によって、量子もつれ状態の生成が加速されることが判明した。

左は量子もつれ状態コヒーレント振動の測定結果、右は数値シミュレーション結果 出典:理研他

 一般的に量子コヒーレンスは環境の雑音に対して極めて弱い。量子系が環境の雑音にさらされると、量子コヒーレンスが失われてしまうデコヒーレンスが起こる。ところが今回の実験により、デコヒーレンスによって生じる量子ゼノ効果によって、隣接量子ビット間でのスピン入れ替え操作が効率よく行われ、非隣接量子もつれ状態の生成を補助していることが分かった。

 今回の研究成果は、半導体量子コンピュータの大規模化に向けた開発をさらに加速させるとみられている。また、雑音が量子もつれ状態の生成を補助していることを解明したことで、高温固体デバイスや生体内の電荷輸送現象などにおいて発現する量子効果の探索にも大きく貢献するとみている。

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