光変調器の試作例(マッハツェンダ変調器とリング変調器):福田昭のデバイス通信(152) imecが語る最新のシリコンフォトニクス技術(12)(2/2 ページ)
マッハツェンダ変調器の問題点は、180度の位相差を稼ぐためには一定以上の長さが必要なことだ。前述の試作例では、約1.5mmの長さを必要とした。これはシリコン半導体のダイ(チップ)にレイアウトするときに、かなりの不自由さを伴う。シリコンダイ面積に与える影響もそれなりに大きい。また、バイアス電圧が約10Vとかなり高いことも、シリコン面積の増加要因となる。
これに対して外形寸法が非常に小さく、またバイアス電圧が低くて済むのが「リング変調器」である。リング変調器はリング状のシリコン光導波路(リング共振器)における共振周波数(共振波長)が光路長によって決まる。直線状の光導波路に近接してリング共振器の光導波路をレイアウトすることで、共振波長に相当する光がリング共振器に閉じ込められ、直線状の光導波路では光強度が小さくなる。
ここでリング状のシリコン光導波路の円周に沿ってpn接合を形成し、バイアス電圧によって屈折率を変化させ、共振波長をずらす。するとバイアス電圧の高低によって直線状光導波路の光強度が変化する。このようにして光を変調する。
マッハツェンダ変調器と同様に、リング変調器でも光導波路の屈折率は温度に依存する。また寸法ばらつきによっても屈折率が変化する。そこでリング変調器も、温度調整用のヒーターを備える。
リング変調器の概要。左上は平面図(レイアウト図)。リング共振器の直径は約10μmと小さい。中央上は顕微鏡による観察画像。右上は設計仕様。出典:imec(クリックで拡大)
このようにして試作したリング変調器の設計仕様と性能の一例を示そう。リング共振器の直径は約10μm。変調効率(電気光学係数)は50pm(ピコメートル、10のマイナス12乗メートル)/V以上、変調帯域幅は40GHz以上である。透過損失(バイアス電圧(ピークツーピーク値)1Vのとき)は6dB以下、ヒーターの効率(共振波長のシフト量)は0.2nm/mW以上。
試作したリング変調器は、バイアス電圧(ピークツーピーク値)が1Vと低くても、50Gbpsあるいは56Gbpsと高い速度でNRZ信号を変調できている。
試作したリング変調器によって50Gbpsあるいは56Gbpsと高い速度でNRZ信号を変調したときの信号波形(アイパターン)。レーザー光源の出力は10mW。疑似ランダム符号列(PRBS)で変調をかけている。出典:imec(クリックで拡大)
(次回に続く)
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