早稲田大学と防衛医科大学校らの研究グループは、光がん治療において、患者への負担が少なく、高い治療効果が得られる無線給電式発光デバイスを開発した。
早稲田大学と防衛医科大学校らの研究グループは2018年7月、光がん治療において、患者への負担が少なく、高い治療効果が得られる無線給電式発光デバイスを開発したと発表した。
今回の成果は、早稲田大学高等研究所の藤枝俊宣准教授、同先進理工学研究科の山岸健人博士、同理工学術院の武岡真司教授と、防衛医科大学校生理学講座の守本祐司教授らの共同研究によるものである。
光でがんを治療する光線力学療法(PDT:Photodynamic Therapy)は、生体に投与した光増感剤が集まった病巣へ光を照射し、光化学反応によって発生する活性酸素で、がんの細胞死を誘導する方法。
特に、出力が従来の1000分の1といった極めて弱い光源を用いたメトロノミックPDT(mPDT)法は、肝臓など体内深部の臓器にできた腫瘍直下に発光デバイスを貼り付け、LEDを点灯させることでがん治療ができる。このため、次世代の治療法として期待されている。ところが、腫瘍と光源の位置ずれなどが生じると、十分な治療効果が得られないという課題もあった。
そこで研究グループは、長期間安定して固定できる体内埋め込み型発光デバイスを開発した。mPDAへの応用を目的としており、シールのように臓器や組織表面に貼り付けるだけで位置ずれを防ぐことができるという。
開発した発光デバイスは、膜厚が約600nmのシリコンゴム薄膜表面に、生体模倣型接着分子であるポリドーパミン(PDA:Polydopamine)をコーティングした。これによって、生体組織への接着性を従来の約25倍に向上させた。発光デバイスを縫合しなくても、最低2週間は生体組織上に固定させることが可能だという。
発光デバイスは、NFC(Near Field Communication)方式の近距離無線通信に対応するLEDチップ(赤色と緑色)が組み込まれており、接着性を向上させたことで腫瘍部と光源のずれを防ぐことができた。
今回の実験では、担がんモデルマウスの皮下に無線発光デバイスを貼り付けて固定した。マウスに光増感剤「フォトフリン」を注射した後、マウス飼育箱の下に設置された無線給電用アンテナから、マウスに組み込まれたLEDに給電して10日間連続的に点灯させた。この結果、光照射による治療によって腫瘍が明らかに縮退した。また、従来のPDTでは近赤外光を用いるが、今回のmPDTでは緑色の光で完全に腫瘍を消失させることに成功したという。
mPDTは、肝がんや膵がんといった深部臓器のがんに適用することが可能である。しかも、極めて弱い光を用いるため、組織温度の過剰上昇や周囲臓器への熱障害といった副作用も原理的にないという。
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