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製造装置の国産化を加速する中国半導体開発だけではない(4/4 ページ)

» 2018年08月09日 11時30分 公開
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PVD装置

 AMATの社員によれば、スパッタ装置のキー技術は、超高真空を維持することと、ゴミの発生を抑制すること、に尽きるという。スパッタ装置の原理は簡単だが、上記二つのキー技術を満足させた装置は、そう簡単にはできないだろう

 しかし、これらの技術に精通した技術者が5〜6人いて、数年あれば、量産に適用できる装置ができてしまうかもしれないという。AMATには中国人が多いが、彼らが装置技術を体得した上で、中国に戻ってAMATの装置をデッドコピーする可能性がある。

 AMATでは、技術者があまり良い目を見ない(出世するのは営業やマーケテイングの人間だ)。そのため、AMATの中国人技術者が、帰国して装置をつくる可能性は高いといえる。

CVD装置

 引き続き、AMATの社員に聞いてみたところ、比較的、厚い膜を堆積するCVD装置なら、開発するのはそんなに難しくないという。

 しかし、ALD装置の開発は、簡単ではない。ALDの概念自体は、50年以上前の発明であり、特許の問題はない。しかし、原子層レベルでの薄膜の成膜には、ガスの供給、温度コントロール、排気、などデリケートな制御が必要になる。従って、キーパーソンが数人いたら3〜5年できるかというと、かなり難しいのではないか。

CMP装置

 スパッタ、CVDに引き続き、AMATの知人によれば、CMPのキーとなる要素は、研磨パッドとスラリーの二つであるという。

 この二つが入手できれば、または、開発できれば、CMP装置の量産適用は難しくない。逆に言えば、研磨パッドとスラリーが何とかならない限り、CMP装置を開発することはできない。

 特に難しいのは、スラリーだろう。Cabot、フジミインコーポレーテッド、日立化成など、大手のスラリーメーカーは、その成分を一切公開しない。また、上記スラリーを入手して、成分を分析して、模倣しようとしても、うまくいかない。

 従って、中国にとっては、CMP装置の量産適用には、スラリーの開発がボトルネックとなると考えられる。しかし、CMPにも、ラフ工程とクリティカル工程がある。ラフ工程なら、現在の中国製装置やスラリーでもできるかもしれない。

 ところが、上海にあるAnji Microelectronic(以下Anji)が、日米のスラリー大手の技術者をヘッドハントし、スラリーを開発しているという。そして、Anjiのスラリーは、TSMCでも採用されていると聞く。ということは、既に中国では、国産のCMP装置やスラリーで、最先端のCMPが実現できている可能性がある。

検査装置

 元KLA-Tencorの技術者によれば、SP1など、パーティクル検査装置については、恐らく、既に中国でデッドコピーされ、中国製の装置が出回っているという。

 しかし、パターン欠陥検査装置やマスク検査装置は、開発することは容易ではない(当分無理ではないか)。というのは、これら検査装置のレーザーやセンサーなどの重要部品については、KLA-Tencorとパーツメーカーがガチガチの契約を締結しており、他社、特に中国メーカーがその重要部品を入手することは不可能だからだ。

 従って、予想では、向こう10年間は、パターン欠陥検査やマスク検査装置を、中国が開発するのは無理だと思う。

洗浄装置

 あるメモリメーカーの洗浄の専門家に聞いてみたところ、現在基本となっているRCA洗浄は、1965年に開発された。各半導体メーカーは、このRCA洗浄液を少しずつ改良・改善して使ってきたが、基本となる薬液は確立されている。それ故、バッチ式洗浄装置は、簡単に作ることができるし、既に中国製の装置があるという。

 一方、枚葉式洗浄装置も、単に洗浄するだけなら、既に中国製の装置があるという。中国製の枚葉式洗浄装置が、SCREENやTELに追い付くことができないのは、1枚のウエハーをいかに少ない薬液で洗浄するか(COO(Cost of Ownership)の問題)と1時間当たりのスループットにおいてである。

 しかし、COOやスループットを度外視し、単に洗浄して歩留りを出すだけでいいのなら、現在の中国製の装置で十分かもしれない。

 中国製のNANDフラッシュやDRAMでは、原価が売価を上回った場合、その赤字を中国政府が補填(ほてん)することになっていると聞く。すると、COOやスループットに劣る中国製の洗浄装置を使っても、チップさえできれば何の問題もないということになる。

5年後、10年後の中国の製造装置業界

 5年後、10年後、中国の製造装置業界はどうなっているだろうか? ArF液浸、CVD装置、PVD装置、CMP装置、パーティクル検査装置、洗浄装置の各分野では、中国製装置が、中国のメモリ工場やファンドリーで大量に使われている可能性がある。

 一方、クリティカル工程用のドライエッチング装置やCMP装置、ALD装置、パターン欠陥検査装置については、日米の装置に頼らざるを得ない状態が続いているかもしれない。

 しかし、今後、製造装置の企業別シェアの争いの中に、中国企業が頭角を現すのは間違いない。中国は、「現状ではできない」となったら、高額年俸で日米欧の企業からキーパーソンを引き抜いてしまう(もう既に実行している)。また、場合によっては、丸ごと企業を買収してしまうかもしれない。

 さらに、米中ハイテク貿易摩擦の影響も、中国の製造装置内製化を加速させることになる。今後、中国の半導体産業だけでなく、装置や材料産業の行方も注意深く観察していく必要がある。

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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