富士通と富士通研究所は、出力を従来の3倍とした、窒化ガリウム−高電子移動度トランジスタ(GaN−HEMT)を開発した。気象レーダーや5G(第5世代無線通信)システムなどの用途に向ける。
富士通と富士通研究所は2018年8月、出力を従来の3倍とした、窒化ガリウム-高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)を開発したと発表した。この素子を気象レーダーに適用すると、レーダーの観測範囲を約2.3倍に拡大することができるという。
GaN−HEMTは、高周波パワーアンプのトランジスタとして、レーダーや無線通信装置に用いられている。送信用パワーアンプの出力を大きくできれば、レーダーの観測範囲を拡大することができ、長距離、大容量の無線通信も可能となる。
富士通研究所は、早くからGaN-HEMTの開発に取り組んできた。現在は、トランジスタの出力を高めるため、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)系HEMTの研究に注力している。ところが従来の構造だと、高い電圧を印加すると、トランジスタ内部で結晶破壊が生じる可能性があった。
そこで今回、電子供給層と電子走行層の間に、高抵抗のAlGaNスペーサー層を挿入する新たな結晶構造を開発した。従来構造のHEMTは、ゲート電極とドレイン電極に印加された全ての電圧が電子供給層に集中していた。新開発の構造では、トランジスタ内部の電圧を、電子供給層とAlGaNスペーサー層に分散することができるという。電圧集中を防ぐことで、電子供給層における結晶破壊を回避することが可能となった。
この結果、InAlGaN系HEMTにおいて、大電流かつ高電圧の動作を実現した。結晶破壊がなくなることで作動電圧は100Vまで向上する。これはゲート電極とドレイン電極間を1cm離した場合に、動作電圧が30万V以上になることを意味するという。
また、両者が2017年に開発した「単結晶ダイヤモンド基板接合技術」を適用することで、トランジスタ内部からの放熱を効率よく行うことができ、動作も安定する。新開発のGaN-HEMT素子を測定したところ、ゲート幅1mm当たり19.9Wの出力を達成した。この数値は従来の3倍に相当し、「世界最高出力」だという。
富士通と富士通研究所は今後、開発した結晶構造を用いたGaN-HEMTパワーアンプについて、熱抵抗や出力性能の評価を行う。その上で、2020年度には高出力の高周波GaN-HEMTパワーアンプを実用化する予定だ。
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