取引が流れた経緯や理由について、Qualcommが詳細な分析を実施する兆しはない。単に株主に(再び)多額の配当金を提供し、先に進む方が簡単だということだろう。資本を提供したNXPの経営陣と株主は、Qualcommからの20億米ドルで“のどの渇き”を潤すことができた。一方、Qualcommの株主は、20億米ドルより高い額を受け取ることとなった。同社は今後2年間で、最大300億米ドルの自社株を買収して償却する計画だ。そうすることで、査定額を高め、より高い配当を提供する機会にするという。
Qualcommは顧客との関係を強化することで、てこずった取引からの回復を狙っているが、簡単にはいかないだろう。同社は顧客に対し、NXPの買収によるメリットを多方面から2年近くもアピールしてきたのだ。それら全てを「なかったことにしてほしい」と言われても、すぐさま納得できるはずがない。
Qualcommの企業としての信頼性は、打撃を受けざるを得ない状況にあった。だが、似たようなトラウマを経験した他の企業と同様に、Qualcommも代わりとなる取引を顧客に示すことで、持ち直すことが可能だ。幸いにも、同社にはそうした代替案があった。
適切な形で前進するため、Qualcommの重役は将来に関する他の一連の質問に答えなければならない。半導体市場では近年、数多くのM&Aが行われてきたが、Qualcommはごく最近行われた買収のうちの2つに関わっている。同社は、さらなる買収機会を探っているのだろうか。それとも、しばらくはおとなしくして、署名の手を休めるのか。これはつまり、Qualcommが買収を狙う企業は他にも存在するのか、ということである。NXPの買収取りやめを受けて発表された幹部の発表では、別の戦略について言及している。
Qualcommはこれ以上、規制当局のご機嫌を損ねることは望んでいないようだ。同社は株主に対し、今後しばらくは大規模なM&Aを試みることはないことを強く示唆した。それよりも、自社株買い戻し計画を加速させ、出資者に300億米ドルを返すことを目指すという。買い戻しのための現金は、NXP買収の資金として過去1年で確保した360億米ドルから拠出される予定だ。Qualcommは2018年8月上旬より自社株買戻し計画の第1フェーズを開始し、2018年8月27日までに自社の普通株を100億米ドルで購入することを申し出た。
Qualcommは、1株当たりの最終購入価格の上限を67.50米ドルと決定した。同社が承認申請書で述べたところによると、もしこれが全額引き受けられれば、同社の2018年7月25日時点での発行済み株式の約10.1%が取引されることになるという。最初のラウンドだけで、発行済み株式の11%以上を購入できる可能性もある。
結論はこうだ。Qualcommは「金を奪って走り去れ」という一つ目の教訓を学んだ。
Qualcommは、NXP買収というひどく不確かな話に株主を巻き込んだ後、出資者に現金を返して怒りを鎮めようとしている。だが、二つ目の教訓もある。直近の四半期で360億米ドルの現金と市場性のある有価証券を得るということは、Qualcommは再び買収の標的になるというリスクにさらされているのだ。Broadcomは以前Qualcommの買収を狙っていたが、米国政府が「国の安全のため」という理由で介入したことにより、1210億米ドルの買収取引を断念した。
Broadcomの損失は、他社にとっては機会となる。新たな売却先候補にとっては、Qualcommが持つ膨大な現金はインセンティブ(誘因)になり得るのだ。その一部を活用して、LBO(レバレッジド・バイアウト)での購入資金を調達できるからである。とはいえ、Qualcommは既に、そのような運命を確実に避けられるようにしている。自社株買い戻し計画によって、Qualcommの現金が流出したことを売却先候補に示すことができた。
(後編に続く)
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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