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組み込みAIをけん引する、ルネサスの意気込みelectronicaで「e-AI」に注力(2/4 ページ)

» 2018年11月29日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

1クロックごとに演算回路の構成を動的に変更

 その鍵となるのがDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)だ。1クロックごとに演算回路の構成を動的に変更できる技術である。具体的には、チップの中に小さなプロセッサがアレイ状に並んでいて、それらのプロセッサの接続を動的に変更する。これにより、動作周波数当たりの消費電力を低く抑えられることが特長だ。「CPUとFPGAの“いいところ取り”をしたようなイメージ」だと馬場氏は述べる。

 1クロックごとに動的に変更する動作モード以外に、DRPには、複数のソフトウェアを読み替えながら動作する「ダイナミックローディング」というモードもある。「このセンサーのデータを取得するときには、このプログラムを読み込ませ、別のセンサーのデータを取得するときには別のプログラムを読み込ませる」といったことがリアルタイムで行える。もちろん、こうした処理はFPGAでも可能だが、DRPの場合はハードウェアではなくソフトウェアでできるので、より柔軟性が高いと馬場氏は主張する。

 「ハードウェアを最初から作り込まなくても、後からソフトウェアでアップデートできる。つまり、エンドマーケットに出た後に書き換えることができるようになるのは大きな利点だ。エンドポイントのAIでは、使っているうちに、『このセンサーのデータも見たい』『あのセンサーのデータも見たい』といったように、実行したいことが後から出てくることも多いと考えられる。その時に、DRPであれば、実行したいことの追加が容易にできる」(馬場氏)

 スマートフォンは、機器自体は同じでも、ユーザーがどんなアプリを入れるかによって、端末としては多様化する。馬場氏は、組み込み機器も同じように多様化していくのではないかと話す。「あの機器ではこうしたい、この機器ではこうしたい、というニーズが増えてくるのではないか。DRPであれば、こうした組み込み機器の“多様化”にも低コストで対応できる」(同氏)

今後3年でe-AIの性能を1000倍に

 ルネサスは2018年1月に、e-AIの性能を今後3年で1000倍にする計画を発表した(関連記事:ルネサス MCU/MPUのAI処理性能を今後3年で1000倍に)。

e-AIの性能を今後3年で1000倍にしていく 出典:ルネサス エレクトロニクス(クリックで拡大)

 上図の「Class-1」は、既存のマイコンにAIを搭載する現在の形態である。「Class-2」に当たるのが、DRPを搭載した第1弾製品「RZ/A2M」で、2018年10月に発表された。画像処理性能が、従来よりも10倍高まったとする(関連記事:ルネサス、MPUの画像処理性能を10倍も向上)。

 「Class-3」は、よりAIの演算を強化するハードウェアを追加したバージョンとなる。DRPのエレメント数を増加するといった対応で、e-AIの性能をClass-2からさらに10倍向上させる。具体的には、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を用いた物体検出アルゴリズム『YOLO(You Only Look Once)』を1W以下で動かせるレベル」(馬場氏)だという。馬場氏によれば、技術的にはClass-3までは既にメドが立っている。

 DRPだけでなく、DRPを使いこなすためのツールも進化させていく。例えば、PruningやQuantizationなど圧縮したモデルも扱えるようにツールを向上させる。その際は、圧縮したモデルを効率よく格納できるようにDRP側も進化させる必要がある。

 馬場氏は、「組み込みにAIを搭載するコンセプトを、われわれは約3年前から提唱してきた。その当時は、あまり受け入れてもらえなかったが、現在では、言わない人がいないくらい、組み込みへのAI搭載は注目すべき動きとなりつつある。IT業界も、組み込みAIの必要があると感じているようだ。エンドポイントにインテリジェンスを搭載するというわれわれの見立ては、外れていなかった」と強調する。

 他の半導体メーカーも、エンドポイントでのAIを視野に入れているが、馬場氏は「リードしているのは当社」だと述べる。「このままリードしていくには、われわれが、使いやすい(e-AI向けの)ツールをできるだけ早く投入し、当社も顧客も、それを活用してユースケースをどんどん作っていくことが重要になる。それが、e-AIの市場を広げるポイントだ」(同氏)

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